俺様副社長のとろ甘な業務命令

その後はもちろん、いつも通りの日常が過ぎていった。

ちょうど仕事が忙しい時期で良かったなんて思いながら、目の前の仕事をひたすらこなす日々。

副社長と仕事を共にする時は顔をまともに見れない状態が数日続いていたけど、幸いあの時のことを蒸し返されることもなく、今のところ平穏無事に過ごすことができていたりする。



仕事のため、商品の品質を確かめるため、そう言われてしまったらそれまでだけど、それでも何故あんなキスをしたのかと考えてしまう。


意味なんてそれ以上ないかもしれない。

たまたま居合わせたのが私だっただけで、もしかしたら別の誰かがその相手になってたのかもしれない。

そんな風に思うと、どうも複雑な気分にさせられる。


こんなちょっとキスされたくらいで、いつまでもうだうだ考えちゃう自分にも嫌気が差す。

中高生じゃあるまいし、私は立派なアラサー女子。

いい歳してって思うのに、浮かれた話にしばらく無縁の私としては、キスだってご無沙汰のものだった。


大学三年から付き合ってた彼氏がいたけど、社会人になってからお互い仕事に追われる日々が続いて上手くいかなくなった。

結局お別れしてからは、もうずっと仕事一筋。

たまに職場のみんなに誘われて合コンとかに参加してみても、彼氏となる人と出会うことはなかった。


寂しい気持ちがないと言ったら嘘になる。

でも、それ以上に仕事にやりがいと楽しさを感じていた。

恋愛をして余計な心労のリスクを背負うくらいなら、当分は仕事が恋人で全然いい。

そう思ってきたから、今回のことは深い意味がなくても私にとっては重大で、衝撃的で……。

免疫力が低下しているところにウイルスに感染してしまったような、まさにそんな状態だった。