派遣OLの愛沢蜜希さんが、ヤサぐれ社員の久保田昇に神様を見るお話
今年の終わりに……高町 皇ですが、何か?
「蜜希ちゃんが、高町さんを振って、久保田を選んだ!?」
ここまで青ざめた林檎さんを初めて見る。
これが本当の〝青林檎〟か……ぼんやりと、そんなくだらない事を考えた。
慌ただしい年末目前の、29日。
いつものように上杉の会社を訪れ、第5営業部のいつもの席で、これまたいつものようにお菓子をつまんでいる。まるでデジャ・ヴ。時間の経過が見えない。
イヴの一連の報告は、遅ればせながら今日となった訳だが。
「もう悪い夢を見ているとしか思えないっ」と林檎さんは頭を抱える。
「それ俺の台詞だよ?」
「久保田が。あの久保田が。久保田ごときが。ゲスが。クズが。クソが」
俺の嘆きは聞こえていない。彼女の言う悪い夢とは、社長の俺が振られた事ではなく、その久保田とか言う迷惑男が選ばれた事、その1点に尽きる。
「色々と言いたい事はあるんだけどさ」
愚痴ろうとした所へ、上杉がすかさず、
「ここに来ると、高町はそればっかりだな」
俺に背中を向けたまま、ひたすら書類をめくっている。
「世の中は理不尽だな、と思って」と、俺が言いたいのはそれだけだ。
無視される俺を哀れと思ったのか、鈴木くんが隣にやって来て、
「王様は貧民に負けちゃうっていう、理不尽なゲームもありますからね」
フォローとも思えない慰めをくれた。
「今だからいうけど、何となく最初からこうなる気がしたよ。いつまでも社長としか呼んでくれないし」
あの日、彼女は去り際、
〝高町社長に無いものがあります。それが、あの人には有るんです〟
悔しいけど……と顔を歪めた。
俺に無いものって何なのか。
参考までに教えてくれないかな?と頼んだら、彼女は少々躊躇して。
〝切なさ〟
あれは刺さった。
俺に足りないのは〝切なさ〟。
用意したプレゼントを返すと言われたけれど、返されても処分に困るので、そのままあげた。俺は痛いプレゼントを貰ってしまったな。
あのまま家に帰ったら、家族から……特に上の妹からアザ笑われる。それが嫌で、予約したスイートで一夜を明かした。相手の居ない淋しさを持て余して、思いがけないイブを過ごす事になったけど。
「恋人が居ないっていうのは、最高に切ないと思うんだけど。どう?」
やめときゃいいのに、また上杉に投げかけた。
「金ボケがイジけるな。そこら辺の底辺男子が許さない。刺されるぞ」
マジやめときゃよかった。フロアの男性社員(底辺男子?)と一緒になって、俺は項垂れる。またまた鈴木くんがやって来て、「大丈夫です。今の高町社長は、すごく切なさ溢れてます」と親指を立てて微妙なフォローを(?)してくれたけど。
だったら何故?
「ここの女性社員が、一定距離、近付いてくれないのは何故だろう」
「ガツガツし過ぎるんだよ。おまえ社長だろ。もっと毅然とやれ」
上杉から、またけちょんけちょんにヤラれたと思ったら「部長のお陰で、切なさ倍増ですね」と鈴木くんにまで邪気のない笑顔でイジられてしまうとは。
(鈴木くんには、別の場面で少々負い目があるので、黙っておく。)
聞けば……彼女が選んだ相手、久保田とかいう男は、ここではヤサぐれ社員と蔑まれる嫌われ者らしい。あの彼女がそんな男とどうして?と思うけど。
よく考えたら、ヤサぐれるとか嫌われるとか蔑まれるとか、それは〝切なさ〟と同様、俺には縁のない要素ばかりだった。
つまり、俺に欠けてる部分という事かもしれない。
「来年は鶏か。歳男だし、ちょっと弾けてみようかな」
途端、「歳男って、オヤジ臭いなぁ、もう」と林檎さんからはジジィ扱い。
「金ボケが弾ける。という事は……そこの株は全部売りだな」
経営者が思いつきで冒険するんじゃない、と上杉には釘を差されてしまった。
俺は溜息をつく。
高学歴。
高収入。
高身長。
家族、親族、華やかな一族に恵まれ、ルックスは女子ウケ抜群だと持ち上げられ、これまで性格が悪いと言われた事だってただの1度も無い。
体力にも自信があった。今年も、槍ヶ岳登頂を達成している。
親父が亡くなってからの激務と重責で、精神的にも鍛えられたと言えよう。
ハイスペック。勝ち組。振り切れた賞賛をこれでもかと言うほど浴びてきた。それなのに。
「肝心な時に、恋人が居ない」
女性と縁が無い訳じゃなかった。誰とも長く続かず、というか必ず振られて、結果、クリスマスや誕生日、何かの記念日に決まって俺は独りだった。
だから今まで家族にも誰にも紹介できずにいる。今年は下の妹にまで先を越されてしまうし……御機嫌な鈴木くんを眺めていたら、思わずため息が出た。
(鈴木くんには、別の場面で少々負い目があるので、これ位にしてやる。)
林檎さんは渋い顔で、
「高町さんが、そんな泣き事とかやめて下さいよ。女の子の夢が壊れるじゃないですか。それ、まるで久保田ですよ?」と、苦言を呈された。
ヤサぐれる……久保田という男の気持ちも分かる気がする。
どうしろというのか。俺は身動きが取れない。
「こういうの読んで勉強してみるとか?」と、林檎さんから小説を渡された。
〝社長サマ〟
〝御曹司〟
〝S系社長〟
表紙絵がパステルカラーの、甘いラブストーリー。
上杉が吹き出すのを尻目に、帯を読んだ。あらすじを読んだ限りじゃ、社長は普通にしてるだけで恋人ができるらしい。結婚もすんなり行く。
「これ聞きたいんだけど……何で男の顔がボケてんの?」
「好きなように妄想しろ、って事だろ」
それを上杉に代弁されるとは思ってもみなかった。
「そう言えば……上杉のきょうだいは相変わらず美人か?」
「元気だ」
「そのきょうだい、もう彼氏は居るのかなーーー」
「元気だ」
最近は、嫌がらせも通じなくなってきた。
上杉のきょうだいは、オネェが趣味の男の娘。いつだか合コンに連れて来てくれたお友達はその関係ばかり。美人は好いが、当然と言うか話にならない。
ここで俺は、プライドも何もかなぐり捨てる。
「こういうの読んでる女の子なら、社長ってだけで付き合ってくれるかな」
直球、俺は林檎さんに思い切って聞いてみたんだが。
「テレビ局買収を企む金ボケが、マスコミに踊らされるんじゃない」
すかさず上杉に、ぴしゃりとやられた。
「誰かに訊かれたらどうすんだよ。影響ハンパないから冗談でも言うな」
チッ、と自然と舌打ちが出る。
……好い感じにヤサぐれてきたんじゃないか?

来年、俺は絶対に恋人を見つける。そして来年中には結婚してみせる。
とにかく上杉にだけは先を越されたくない。
残ったクリスマスケーキ。おせちの試食品。年賀状の印刷見本。
去年と来年をゴチャ混ぜにして、今が暮れていく。
俺は今度こそ、絶対に!

FIN.

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