最終電車の着く駅(仮)
それから3日ほど経ってまたホームにはあの言葉が響いた。

今日はあいにくの雨模様。
冬を迎えようとしているこの街の雨は少し冷たくって俯いて改札を出た。

カフェでカーキを並べてもテーブルを綺麗にしても
暖かいコーヒーを準備しても客はだれ一人来なかった。

僕は窓の外を眺めた。
雨はいくつもいくつも止まることを知らずに落ちては壊れて繰り返した。

この光景を歌にできるように脳裏にしっかり焼き付けて。
まだ閉店の時間じゃないけどcloseの文字を掲げて
一人で窓の外をまた眺めながらコーヒーを飲んだ。

いまだに僕はキミの好きな味の熱さのコーヒーを飲んでみた。

苦いものは嫌いってあんなに眉間にしわ寄せていたのに…
こんなに苦いものを飲んでいてんだと思うとまた違うキミが見えた気がした。

僕はキミの何を見ていたのか
7年ずっと一緒だった時間が無意味に過ぎた気がして水面が揺れた。

もう何も戻ってこないのに。


カラン……


ドアが開いた音がした。
僕は焦って「すいません」その言葉と一緒に飲み干したカップと涙を片付けて
ドアの方をむいた。

あぁなんでだろう…いつもキミが連れてくる季節は春だったのに。
キミは冬を連れてきた。

ひび割れそうな時間によそよそしい僕
何も変わらないボクと大人っぽくなったキミは僕の前のカウンターに座って

「かぼちゃのケーキとカフェオレをホットでください」

といった。

あぁ、いまわかったよ。
キミは苦いものは嫌いなんだ。

ただ、ブラックでしか飲めないボクを知ろうとして
少し無理をしてミルクも砂糖も減らして飲んでいたんだね。

カップを握っている僕の手はその現実を遅すぎた今気づいて震えた。

「よかったら…」

差し出した白タオルを受け取って浅く会釈した。
少し触れたキミの指先から伝わる温度でさえ
この冷めきったコーヒーをもう温めることなどできないことを僕に残酷に知らせてくれた。

「あとベリーのケーキを2つとブラックのコーヒーをいただけますか?」

あんなに近かったはずの距離はいま、店員と客の関係でしかなかった。

「隣に座りませんか」

僕の目をまっすぐに見て伺った。

「あ…じゃ」

またあの日のぼくに帰る。

「元気だった?」

キミの何の躊躇もない声。

「うん元気だったよ」

明らか動揺を隠せていないボクの声。
人の顔を見ることもできなかった照れ屋なキミですらもうここにはいない。

「ここ、ようやくできたんだね」

「うん、今年の4月にできたばっかりだよ」

「ここで働いてるの?」

「社員だよ」

「音楽はまだやってるの?」

「やってるよ」

「まだあの家に住んでるの?」

「うん」

視線は交わろうともしないで遠くでキャッチボールは続く。
変わりすぎたキミを今の自分じゃまだ見ることできなくて
どんどん消えていくケーキの姿、僕はまだケーキを口に運べずにいた。

きっともうあの日には帰れないと悟ってしまった心と
まだもそれるかもしれないと奇跡を信じるボク。

それからだいぶ雨の音も静かになって

「帰るね」

そういってコートとカバンを持ってドアのほうに
少し高いヒールの音を響かせていくキミ。

「あの!」

届かなくてもいいから…伝えなきゃいけないことがある。

「もう1度友達からやり直せませんか。
何も知らない2人からやり直せませんか。
もしやり直せるならふりむいいぇもらえませんか」

こんな肝心な時ですら涙交じりの声。
ダサい奴。

キミは…もう2度とあの日から姿を見せなくなった。
僕はまだこのカフェで少しの奇跡を信じたまま。

始まっていく今日。


最終電車が着く駅は今日も誰かの思いを乗せてこの街へやってくる。

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