どんな君でも愛してる
「はい。」

 慌てた男性からスッと帽子を取り返し、瑠璃の頭に帽子を被せてくれる。男性は長身で、お礼を言おうするとちょうどエレベーターがついた知らせの音がした。

 エレベーターに気をとられていると、その男性はお礼も聞かずに玄関に歩いており、すぐに退社する社員の影に隠れてしまう。

 諦めて八木からもらったゴールドのカードキーをエレベーターに認証させ乗り込もうとすると、先程の三人組の男性が顔面蒼白になるのが分かる。

「ヤバイ、ゴールドカードキーだ!」
「えっ!!てことは、VIP!」
「ヤバイぞ、アッパーフロアの連中にチクられたら!」

 そんな三人組の声を聞きながら、エレベーターに乗り込み、ちらりと三人組が頭を深く下げているのが分かる。

 瑠璃は、なぜ恐縮するのか分からず、ただ三人をぼーと眺めた。

 54階につく中で、エレベーターの中で、考えるのは先程助けてくれた男性。

 顔は分からないが、自分よりかなり長身で、甘い優しい声、一瞬見えた後ろ姿は細身で、真っ黒で天然なのか人工なのか少しくせ毛風の短髪のウェービーヘア。

 すれ違うときに微かに石鹸の臭いがした。

 エレベーターがゆっくり止まり、どうやら52階についたらしい。

 
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