誰かのための物語
その日の夜、僕はまた、あの妙にリアルな夢を見た。
 
小学校の中だということは同じだったが、場所は教室ではなく、図書室だった。
 
この夢がリアルなのは、景色だけじゃない。窓の外からは子どもが遊ぶ声が聞こえている。
手からは、木でできた机の冷たさを感じたし、給食前なのか、どこからか美味しそうなにおいが漂ってきている。どうやら今日の給食はシチューみたいだ。

聴覚、触覚、嗅覚。

どれも夢ではなく、本当に自分がそこにいるような感覚がある。

でも、自分の手を握ろうとしても動かない。どうやら、思いどおりに身体を動かすことはできないようだ。
 
僕の意思とは関係なく、まっすぐ図書室の奥へ進んでいる。

図書室だから、きっと本を探しているんだろう。

そう思ったけど、手に取ったものは、本ではなかった。
 
それは、一冊のノートだった。右奥の棚の一番上の端にあり、背表紙が棚の奥側を向いている。表紙にはなにも書かれていなかった。
 
僕はノートの中身を開くと、なぜか手に持っていた色鉛筆でそこに絵を描き始めた。

けれど、その絵だけはぼやけていて見えない。
 
僕はひとりでなにをやろうとしているのか。
なぜ、ノートは目立たない場所に隠し てあるのか。
 
そう考えているうちに、時間が経っていたようだ。
キーンコーン……とチャイムが 鳴る。
僕は急いで片づけをしてノートをもとの場所に背表紙が奥になるようにしまい、
そして早足で図書室をあとにした。
 
夢は、そこで終わった。

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