誰かのための物語

次の日の登校中、電車の中で僕は考え続けていた。自分が、あのイルカや男の子のようになる方法だ。


それも、サッカーの世界で。
 
そもそも、自分はなぜサッカー部に入ったのか。

その疑問に対する答えは、すぐには出てこなかった。


相良に誘われたから?
仮入部が楽しかったから?

どちらも合ってはいるが、ピンとこなかった。いったいなぜだろう?

考えごとをしていて、ふと気が付くともう教室に入っていた。

無意識でも自分がしっかり教室に向かっていたことに驚く。

「おはよう、日比野くん」

「えっ、あ、あぁおはよう」
 
そしてさらに、森下さんがそこにいたことにも驚いた。


なぜなら今日は水曜日だったからだ。

ノートは、昨日もらったばかりなのに。

「今日も早いんだね」

「うん、二日もこの時間に来てたら、こっちに慣れちゃって」


「へえ、すごいね」

 
こんなに早い時間に来てもすることもないだろうにと思いながら、彼女がいたことは僕を少し嬉しくさせた。


「日比野くんだって。毎日、朝練お疲れ様。

今日もこれから練習だよね」
 
彼女は時計をちらりと見たあとに、小さく頭を下げた。



その言葉を聞いて、なんだか僕は申し訳ない気持ちになってしまう。


「あ、えっと……」

「ん?」
 
返事をにごす僕に、彼女は不思議そうな顔をした。


「あの、それが『お疲れ』ではないんだ」



「えっ、毎朝練習してるのに疲れないの?」
 
彼女は、目を丸くして尋ねる。


「ううん、そういうことじゃなくて……ええと、



『お疲れ様』という言葉が合わない というか」
 
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