誰かのための物語

六月が終わろうとしていた。暑さがだんだんと厳しくなり、それに伴って電車内の冷房が強くなっていく。

温度差で体調を崩してしまいそうだ。

早朝の電車に座り、発車を待ちながら僕はさまざまなことに思いを巡らせていた。


僕は、森下さんの物語からヒントをもらってサッカーをがんばる原動力を見つけた。

それからは、さらに部活にも朝練にも精力的に取り組むようになっていた。


体力を高めるために、朝と夜に欠かさずランニングもしているので、この暑さの中でもバテずに走り回れるようにもなった。


しかし、全国大会の予選では、結局最後まで試合に出ることができなかった。その代わり僕は、チームのために応援や雑用、選手のケアなどを全力で行った。


予選の結果は準決勝敗退。

チームに勢いがあり先制点を奪うことには成功したのだが、後半に立て続けに二回失点してしまった。

そんなピンチを迎えたときにも、交代枠として自分の名は呼ばれなかった。

応援しながら、自分が選手としてその試合で必要とされなかったことに少なからず焦りや無力さを感じていた。


 まだまだ自分には、実力が足りない。

それは自分自身もわかっていた。

今の自分では試合に出て力を発揮することはできないと。

そんなことを、フィールドの外で試合を見ながら感じていた。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、チームの全員が悔しさをにじませた。

しかし、僕の『悔しい』は、
一緒にプレーヤーとして戦えなかったことの悔しさだ。



このままではいけない。練習の方法というより、意識を変えなければいけない。


そう考えていたとき、森下さんの物語の続きは、またしても僕にヒントをくれた。


まず、物語の中の男の子は、自分のことを信じてくれている先生のためにも全力で練習に取り組んだけれど、うまくいかなかった。


それは、一生懸命練習をしたけど試合に出れなかった僕と同じだ。このことは、ただ大切な人のためにガムシャラにがんばるだけではだめなのだということを教えてくれている。

そして、白鳥の話。白鳥は、仲間のために罠を取り外して回るという自分にできることを見つけてやり続けた。


白鳥は、自分の可能性を見つけられた。僕にとっての可能性は、なんなのだろう。
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