誰かのための物語
なんだか、森下さんみたいなことを言うなあと思った。

つまりは、僕はその言葉にまんまと納得し、勇気付けられてしまったということ。


「あのさっ」


 僕は狙いを定めて鋭くパスを放った。

そして、離れた相良にしっかりと届くように大きな声でこう言った。


「これからも練習、付き合ってもらいたいんだっ」



「いいよーっ!」


 相良は、パスを受け取りながら、即答した。


まるで、そう言われるのがわかっていたかのように。


「ありがとう! ……あとさ、縦パスの出し方、おしえてっ」


相良も「まかせろ!」と大きな声で返してきた。


そしてこう続けた。


「日比野には、試合に出てもらわないと困るからなっ!」





……相良の優しさに、僕は感謝しなければならない。


後悔しないためにも、苦手なことからは絶対に逃げない。

相良からボールが返ってくる。


僕は、これが試合中なんだと思って相良にまっすぐパスを放った。


今度は、ボールが相良のもとへしっかりと飛んでいった。



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