恋人は魔王様
「いい子だ。
 じゃあ、今、契約のキスをしてくれる?」

黒い瞳を不遜の色に染めて、キョウが言う。


えええええーっ

私、自分から誰かにキスしたことなんて一度もないんですけどっ

しかも、これさえムードなし?!

「ユリアはちゃんとできるよね」

表記すれば、それは子供を諭すような甘い言い回しなのだけれど、口調と雰囲気はもう、押し付け以外の何物でもない。


私はぎゅっと瞳を閉じて、背伸びして、キョウの唇に自分の唇を押し当てた。
ほんの一瞬。



ふわり、と、周りの空気が変わったような気がした。

でも、瞳を開ける勇気がない。

「ユリア。
 キスって言うのは、もっと上手にやらないと」

笑いを堪えたような声で囁くように言うと、キョウがもう一度私に唇を重ねてきた。
甘く、柔らかく、蕩けるような。

悔しいけれど、それは確かに極上の唇づけだった。



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