恋人は魔王様
私はドレスの後ろをしめるところだったのに、思わず手を止めて振り向いた。

「メールって、何?」

「なんだ、ユリアはジョシコーセーの癖にメールも知らないのか。
ケータイ電話を持ってないから?」

からかうように笑う。
全く人が気にしていることを次から次に!

それが私のコンプレックスその2だっつーの!!

「ケータイは持ってないけど、メールくらい知ってるわよっ。
ここと人間界って、メールで繋がるの?」

「いまどき、ヨーロッパでも日本のケータイ電話は使えるぞ」

「私の認識では、ここはヨーロッパより遠いわ」

「では、その認識は今すぐ改めるべきだ。
いいか?ヨーロッパは飛行機で何時間かかると思う?
ここは1秒でこれる。
どっちが近いか子供でもわかる問題だ」

キョウがどうしてそうも自信満々なのかまるでわからない。

「ヨーロッパは聞いたことあるけど、魔界なんて存在昨日初めて知ったのよ!」

キョウは目を見開いた。

「ユリア、ツバルって知ってる?」

「スバル?星、もしくは自動車会社の名前、あるいは歌のタイトル?」

思いつくことを全部言ってみるが、キョウは小馬鹿にしたように微笑んだ。

「いや、ツ・バ・ル。
太平洋にある国の名前。首都はフナフティ」

私は思わず言葉に詰まる。

「ほら、そこってヨーロッパより遠いって言う認識?
俺の中じゃオーストラリアより近いけどね」

……なんて、博識な悪魔なんだ。

私が下唇を噛むのを見て、勝利を感じたのだろう。

「こっちにおいで、子猫ちゃん。
ファスナー、閉めてあげる」

またしても、腹が立つほど魅惑的な表情と声で、そいつは私を呼びやがったのだ。


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