ヒーローの進化論
1. 俺にも笑ってよ。


「この席いい?」


人違いでもしているんだと思った。

この広い食堂で、ましてや昼からの授業が行われていて人がまばらなこの時間帯に。
あまり関わりのない人物、同じ学部の山井くんが私に問いかけてきた。

空き時間に課題をする為の場所を探して流れ着いたこの場所で、教科書やプリントを盛大に広げて、さぁやるぞとペンを握った途端の出来事だった。

突然のことで状況を掴めない私に、もう一度同じことを尋ねたので慌てて頷く。それを合図にして、目の前のイスに彼は腰掛けた。


「西野さ、カフェオレ飲める?」

「っえ?」

「飲める?」

「あ、はい。飲め、ますけど」


広げていた教科書とプリントを私が目一杯自分の方に寄せると、山井くんはその空いたスペースにリュックから取り出した缶を二つ置いた。私の方にその内の一つ、カフェオレの缶をそっと差し出してくる。

人違いだと思っていたけれど、どうやらそうではないらしい。
確かにさっき、彼は私の名前を口にした。

受け取った缶は微かに温かく、なんだか飲むのはもったいないような気がしたけど、飲まないのも逆に変なのでありがたくいただいた。

私が彼を一方的に見ていたことはあっても、向こうが私を認識していたことにまず驚きだ。
良くて友達、の友達くらいの立ち位置にいる私の名前を覚えていたなんて。


「それって国際経済論?」


無糖の缶コーヒーを飲みながら、私のノートを指差す。


「そうです。前回休んだんで、次の課題が難しくて」

「先週のノート今あるけど…、見る?」

「え!!」


あまり表情を崩すような印象を持たない山井くんが頬を緩めたのを見て、自分の感情がかなり表に出ていたのだと分かった。

友人からノートを借りる予定が、タイミングが合わず全く会えてなかった中での、彼からの提案。嬉しいこと、この上ない。

だけど、目の前の彼が笑いを堪えながらリュックを漁る様子を見ると、さっきの自分がひどく恥ずかしくて顔が熱くなった。

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