男狼

大神

男狼 第10話
「…………っ!!」

憐が、驚愕の声をあげる。

そこには、【男狼の過去】と記されていた。




……………………男狼の過去。

男狼とは、狼の姿から人間の男へと姿を変える、

人の願いを叶える存在である。

男狼は、元々人の世を支えていた神が、

力を失い、

自らの姿を維持できなくなったためにできた存在。


男狼の狼(オオカミ)は、

実はオオカミではない。

おおかみ。

大神なのだ。

男狼の儀式とはつまり、

男狼を大神に戻すためにできたものである。

人の願いを聞き届け、そして叶える。

この行為によって、

かつて大神だった頃の力が戻るのだ。



だが、それだけではとてもじゃないが、

足りない。

それによって得られる力は本当に微少なものなのだ。

願いを叶えるのにも力を使うので、

ひたしたら力を失うだけになることもある。



そこでできたのが男狼の儀式。

願いを叶えてもらった者は、

代償として死ぬ儀式。

死ぬ、ではなく、殺すのほうが正しいだろうか。

男狼は、願いを叶えた者を殺し、

魂を、貰うのだ。

この魂を得ることによって、

莫大な力が手に入る。

大神に戻るまで集めなければいけない魂は、

なんと100個。



儀式では、願いは事実上4つの内の1つしか叶わない。

だが、男狼がその気を出せば、

4つ叶えることもできる。

ただし、複数人いた場合に限るが。

まとめると、魂の個数分、願いを叶えるということだ。

この儀式で望む一般的な願いは、

“~を、生き返らせて欲しい”だ。

愛する者を、自らの命を引き替えに、だ。




だが、1982年。

異変が起きた。

1人の男狼が、嘆いたのだ。

「もう、殺したくない」と。

泣きながら殺していた。

大神に戻れなくても死にはしない。

ただ、世界のバランスが崩れてしまう。

だがそれは新しい大神を創れば良いだけ、

小さな抵抗をする者もいたが、

1985年。

男狼の儀式は、

禁止された。




だが、男狼を大神に、

どうしても戻してやりたいと願う者がいると、私は信じる。

その勇敢な者のために、ここに過去を記す。



木谷 泰介(きたに たいすけ)




…………………………

本を読み終えた憐達は、

ただ呆然としている。

「大神………………だと?」

嫌な汗を流しながら、

憐がぼそりと言う。

「神様だったのかよ」

2人が顔を合わせる。

本にはまだページが残っている。

「次、見る?」

圭が聞く。

憐は、真剣な表情でこたえる。

「見るよ。
見なきゃいけない。

神様だったなら、
何で俺の姿をしていたのかも
気になるから…………」

圭は、憐の言葉に頷き、次のページを開いた。

そのページの題名となるものを圭が読む。

「……………………【男狼の、禁忌】……?」

禁忌。

ようするにやってはいけないこと。

それは何個かあった。



1 男狼は殺してはならない

2 代償を拒んではならない

3 男狼が制限した範囲を越えてはならない

4 男狼に殺される以外で、死んではならない

5 男狼の儀式を途中で止めてはならない

6 ‘化け物’と言ってはならない

7 大神について、思い出させてはならない



憐達は、最後の2つに、注目した。

7はつまり、大神だった頃の記憶は無くなるということ。

でも、レンは知ってるように見えた。

誰かに教えられたのだろうか。

6は、………………分からない。

化け物と言って、何が起こるのか分からない。

何故言ってはいけないかも、分からない。

「何だよ…………これ。

化け物と言ったら傷つきますってか?」

圭がぼそりとイライラした様子で言う。

その時だった。

2人は、急に背筋が冷たくなるのを感じた。

そして、真後ろから声が聞こえる。

何回も聞いた声が。

「「また、会ったね」」
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