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暗い海の中、夏の背中が見えた気がした。


「夏! 待って!!」


あたしは手を伸ばして夏を追いかける。


バシャバシャと海水が飛び跳ねて制服はあっという間にびしょ濡れだ。


だけどそんな事どうでもよかった。


今目の前に夏がいる。


手を伸ばせば届く距離にいるんだ。


「夏!!」


そう言った瞬間、海水が口の中に入ってきてせき込んだ。


気が付かない間にあたしは自分の顔が水につかるほど沖へと来てしまっていたようだ。


途端に夏の姿が見えなくなった。


あたりは真っ暗で波の音しか聞こえて来ない。


海の冷たさがジワリと体に広がって行く。


「夏……?」


どこまでも真っ暗な海に夏はいない。


どこにも、いない……。


不意に足に何かが触れた。


たぶん海藻か何かだと思う。
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