雨宿りの法則
5 今さら、今から、


前の日の雨は朝方止んで、今日はお昼前くらいからお日様が顔を出し始めた。
昨日なんて夜になってから降り出した雨のためにコンビニで傘を買う人がたくさんいた。

そういえば私はせっかくバッグの中に常備していた折りたたみ傘を、敬佑くんの車に置き忘れてきてしまったんだっけ。

━━━━━でも、まぁいいか。また買えばいい。

そんなことを考えながら、いつも通りの時間が過ぎていく。


「沼田のおばあちゃん、最近ちょっと認知症が進んできた気がするんだよね。そろそろ大学病院に紹介状出して、詳しく検査でもしてもらおうかな」


今しがた診察をした高齢の患者さんの話を、山路先生が私に振ってきた。

沼田さんは数年前からうちのクリニックに通っている常連さんで、いつもは高血圧症のお薬くらいしか処方していなかった方だ。1年ほど前から言動が怪しくなってきたと山路先生が気づいて、ご家族に早めに伝えたのだ。
大きな病院に行くのはもう少し様子を見てから、というご家族の意向もあったので経過観察程度だったのだが、どうやら先生はそろそろその時期が来たと判断したらしい。


「今日ご家族一緒でしたけど、紹介状はいつにしますか?」

「ん〜、じゃあ今書いちゃうから、ご家族にそのこと伝えてくれる?」

「大学病院だと予約も必要で手続きが面倒なので、予約だけ先に取ってもいいですか?FAXのやり取りもしないといけないので」

「うん、任せる」


任せると言われても、私がやるわけではなく事務の真美ちゃんに一任してしまうのだけれど。
電話のやり取りやFAXなんかは事務の方がスムーズに進めてくれるので、私のような者が出る幕はないのだ。

受付に出て真美ちゃんに沼田さんの件を伝えると、彼女は「分かりました」と笑顔でうなずいた。


「紹介状もFAXしないといけないので、先生が書いたら私にすぐ渡してもらえますか?とりあえず大学病院には電話だけしておきます」

「うん、分かった。沼田さんちにはちょっと時間もらうからって私から言っておくね」

「お願いします」


今日はそんなに患者さんも来ていないし、わりとスムーズに事が運べそうだ。
いそいそとカウンターを出て、待合室にいる沼田さんのご家族に声をかける。

ご家族に説明をして理解をいただき、もう少し待ってもらうようにお願いをして立ち上がった時、作業着姿の見覚えのある男性が窓の外に立っているのが見えた。


━━━━━敬佑くんだ。

< 34 / 47 >

この作品をシェア

pagetop