きっと、君だけは愛せない
ケイとは今でも二、三ヶ月に一度のペースで会っていて、居酒屋でお酒を飲んだり、喫茶店でだらだらと話をしたりしている。


それはとても心地よい時間で、私にとってはすごくリフレッシュできる大切な時間なのだけれど、

ケイにとってはそうではないのかもしれない、と思って距離を置こうとしていた頃もあった。


それでも彼は定期的に私を誘い、「友達として」だとか、「べつに下心も妙な期待もないから、気楽に来いよ」と言ってくれるので、

私はその言葉に甘えて、誘われたら必ず受けている。


正直なところ、彼氏と会うよりも、ケイと何気ない話をするほうがずっと楽しい。

彼氏といるときは息が抜けないけれど、ケイとだったら何も考えなくていいから。


それなら、ケイと付き合ったほうがうまくいくのかな。そんなふうに考えたことも、確かにあった。


私はどうしてケイじゃだめなんだろう。

ケイのことは尊敬しているし、大好きだし、それなのにどうして、付き合うとなったら足がすくんでしまうのか。

ケイがせっかく私のことを好きだと思ってくれているのなら、付き合えばいいんじゃないのか。

そんな自分勝手で打算的なことを考えていたこともあった。


だけど、それは間違っている、と自分に言い聞かせた。


どうしてケイじゃだめなのか。それはとても簡単なことだ。


私はケイに嫌われたくない。

私はケイを傷つけたくない。


だから、ケイとは恋人にはなれない。


「まあ、気長にいきますよ」


自分の考えに沈んでいた私は、ケイの言葉で我に返った。


「もうずいぶん長く待ってるからな。今さらプラス何年されようが、大した違いはないよ」


鼻歌でも歌いそうな気軽さで、ケイはそう言った。


待ってる、って、私を?

私にはそんな価値はないのに。


それなのに、ケイはこんなにも私を一途に思ってくれている。

こんなに優しくしてくれている。



私は隣をのんびりと歩くケイを見た。

霧雨の中、傘を少し後ろへ下げて、夜空を見上げるケイ。


「お、雲の向こうに月があるぞ。今日は満月か」


月が綺麗だな、と心底嬉しそうに微笑んでいる。


ケイといる時間はとても穏やかで、安らぐ。

ケイとずっと一緒にいられたら、きっと私は毎日笑っていられるんだろうな、と思った。


いっそ、君だけを愛せたらいいのに。




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