きっと、君だけは愛せない
「どうして、私じゃだめなんだろう……」


思わず自嘲的に笑うと、ケイが慰めるぽんぽん、と私の頭を撫でてくれた。


「つらかったな。よく我慢して式に出たもんだよ。お前、偉いわ」


そんな温かい言葉をくれるのはケイだけだ。

不覚にも涙が滲みそうになる。


「うう~、ケイって本当にいいやつ!」

「ははは、どうも」

「なんでそんなに優しいわけー?」

「そりゃ、お前のこと好きだからだよ」


その言葉が耳に入ってきた瞬間、私は一気に酔いがさめたような気がした。

顔をあげると、いつものように飄々とした様子のケイがいた。


「……へ? 今、なんて?」

「お前のこと好きだから」


どうやら聞き間違いではなかったらしい。

ぽかんと口を半開きにして、目を見開いてケイを見つめる。


「……はいぃ?」


聞き返す声が裏返った。

なんの冗談、と思った。


でもケイはくすりとも笑わずに、真顔で繰り返す。

私をからかっているわけでもないらしい。


「俺、ずっと前から、お前のこと好きだから。だからお前の前ではいいやつになるし、優しくするんだよ」


は、と声がもれた。


「……初耳なんですけど」

「初言いですからね」

「なるほど」


沈黙。

ケイは相変わらず平然とした顔で、何事もなかったかのように冷奴を食べている。


「えーと……うん」


何と返せばいいか分からず、私は謎の相づちを打ってしまった。


「ふっ」


突然、ケイが小さく噴き出した。

それからおかしそうに肩を揺らして笑う。


「さっきまでのマシンガントークはどうした、お前」

「いや、いやいや、そりゃそうでしょ。どんな顔すればいいかわかんないもん」

「いつもの顔してればいいだろ」


さらりとケイが言ったので、

もしかしてこれは受け流せばいいやつなのか、そうなのか、と少しほっとした矢先。


「で、返事は?」


いきなり訊かれて、「ひっ?」と変な声をあげてしまった。

驚きと戸惑いで心拍数が異常に上がっているのを感じる。


「返事。告白されたら返事するもんだろ」


まっすぐにケイの目が私を見る。

くっきりとした二重瞼の大きな眼。


頭が真っ白になる。

思わず俯いた。


そのとき、足下に置いていた引き出物の紙袋が目に入った。

カズの名前。

恋しい顔が脳裏に浮かんだ。切れ長の眼。大好きだったきれいな眼。


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