きっと、君だけは愛せない
いっそ、君だけを愛せたら
【September, 2014】






待ち合わせ場所のカフェに入ると、奥の席に座っていたケイが笑顔で手を振った。


「ごめん、遅くなった!」


雨に濡れた傘を椅子にかけながら謝ると、ケイは「いいよ」と飄々と答える。


「忙しかったんだろ? 仕方ないよ」

「うん、ちょっと定時直前でばたばたしちゃって」

「大変だったな」

「ケイと約束あったから、死ぬ気で頑張って終わらせてきた」

「ほう、殊勝な心がけだ」


偉い偉い、とケイは頷いた。

そこにちょうどウェイターがやってきたので、ホットコーヒーを頼む。


「なんかさあ、ホットコーヒー飲むと、ああもう夏も終わったな、って感じよね」

「そうだなあ。もう秋だもんな。日が落ちるのも早くなったし」


ケイにつられて私も、通りに面したガラス張りの大きな窓へ視線を投げた。


色とりどりの傘を差した人々が横切っていく。

外はさっき私がここまで歩いてきたときよりも薄暗く仄青くなってきていた。


それからしばらく、近況報告をしたり、仕事の話をしたり、共通の友人の話をしたり。

気がついたら一時間ほどが経っていた。


「で、ミキは最近どうなんだよ」

「どうって?」

「あっちのほうは。誰かいい人いるのか?」


びっくりしてしまった。

本気かどうかはさだかじゃないけれど、私のことを好きだと言っていたケイから、まさかそんなことを訊かれるなんて。


でも、そういえばあれは一年以上も前のことだ。

もしかして、もう私への好意はないということか。

ほっとしたような、勝手だけど少し寂しいような、複雑な気持ちだった。


「まあ、うん……いるような、いないような」


そんな曖昧な答え方をしてしまった。

私がそんなずるい答え方をしてしまったのには、いちおう理由があった。


半年ほど前に告白されて付き合っている彼がいるのだけれど、

最近はすれ違いばかりで、なんとなく連絡も間隔が空くようになり、このまま自然消滅になりそうだな、なんて思っているところだったのだ。


「なるほどな。彼氏はいるけど、最近うまくいってなくて、別れるかもしれないな、ってとこか」


ケイが独り言のように言った言葉があまりに的を射ていて、笑えてきた。


「よく分かるね」

「そりゃなあ、もう十年近い付き合いだからな」

「そっか。そうだよね」

「その間、ずっとお前のこと見てたわけだし」


息が止まるかと思った。

さらりとなんてことを。


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