ピエリスの旋律

やけに威勢の良かった彼女は、態度だけは私への嫌悪で溢れているけど、口を噤んで言い返すことはできないようだ。
こんなことをしても、尾瀬くん本人に知られるのはやっぱり避けたいのか。


しばらくそうして向かい合っていたけど、廊下を誰かが歩いてくる音が聞こえてきて、彼女は弾かれたように私に背を向けた。

教室を出る前に一度振り返って、


「あんたのこと許さない。絶対苦しめてやる」


そう呪いのような言葉を私に投げ付けて、教室を後にした。
彼女の目は私への怒りと憎悪に満ちていて恐怖を覚えた。


こんな漫画みたいなこと、本当にあるんだ。
私はどうすれば良かった?今後一切尾瀬くんに近付きません、くらいのことを言えば良かったの?
実際そんなこと不可能だし(隣の席なんだから)、何を言っても彼女の神経を逆撫ですることになったんだろうけど。

だけど、私は尾瀬くんにアタックしてるわけでも、なんでもないのに。
私の何がそんなにも気に入らないんだろうか。


動き出す気にもなれず、教室の真ん中でぼんやりと佇む。
だけどこのままこうしていると、尾瀬くんが戻ってくるかもと思い出して、急いでその場から離れた。
こんな顔、見られたくないよ。

彼女に歌のことはバレてないんだろうか。
あの様子だと、知ってたら絶対責めるネタにしてきただろうけど、それはなかったし…。
この先また何か、別のことで突っ掛かってくるかもしれない。
しばらくは用心した方が、いいのかも。



色んな感情が渦巻いて、もやもやする。

どうして私がこんな目に合わないといけないんだっていうのと、彼女も尾瀬くんが好きなのかっていうのと。

彼が貰うチョコレートの数で分かった。
色々簡単にはいきそうに、ないと。

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