桜の咲く頃

なんとなく予想していたことが

こんなにもあっさりと当たってしまうと

人は理解するまで時間がかかるらしい



でも



なんとなく予想していたから

すぐに受け止めることが出来たのかもしれない



私はその後

彼女と別れ、自分の病室へ戻った




窓の外を見ると薄暗い中に立つ

桜達が見えた


なんだか悲しそうに

枝を揺らしているような気がしてならない



「私も悲しいわ…」



蕾ちゃん、あなたの人生が

少しでも良いものになっていたら

私とあなたが出会ったことに

意味があったんだと思う


何かが結びつけてくれた

この縁のおかげで

出会うことができたのだもの





あなた一人としての人生は終わったのかもしれない



でも心や思いはこれからも続いていく



またどこかで会えるといいわね



蕾ちゃん





いや…



今度は立派な花を咲かせてほしいわね



あなたの好きな桜のように…




―――――
―――
――



「荷物はこれで最後ね」


「あの家に帰りますか、おばあさん」


「えぇ」


待ちに待った退院の日

荷物をまとめ

お世話になった病室を後にした



中庭に面したあの廊下を通ると

ふと、あの子の気配がした



いるはずない



そんなの分かっていた

だけど、振り向かずにはいられなかった



ベンチまで歩み寄ると

どこからか飛んできた桜の花びらが

一枚だけあの子の座っていた所に落ちた




「さようなら、蕾ちゃん」



あなたに出会えて本当に良かった

いつかまた会いましょうね




私は別れを告げると

おじいさんの元へ戻った



「もういいのかい?」


「えぇ、もう大丈夫ですよ」



そう言うと、おじいさんは

あたたかく微笑んだ



もう振り向かずに

私は帰路につくことにした





ベンチには

桜の花びらなんて落ちてないことに

私は一生気付くことはないのだろう





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