一輪の花を君に。
「先生は、やっぱり大人ですね。」



「君より、10年近く長く生きてるから、そう感じるだけだよ。」




「…先生、俺美空の元に戻りますね。」




「分かった。」





それから、俺は院長室へ向かった。





美空を、俺が引き取りたいと伝えるために。





「失礼します。」




「おお、誠。どうした?」




「お話、よろしいでしょうか?」




「珍しいな、コーヒーでも飲むか?」




「あ、俺が入れます。」





「いいよ、今日は新しい子を診て来たんだからゆっくり休みなさい。」





「ありがとう。」




「ああ。」





「それで、話って?」



マグカップに、コーヒーを入れてから親父が聞いてきた。




「榎本美空ちゃんのことなんですけど…。」




「ああ。新しい子か?」




「うん。それで、その子過去に色々あったみたいで、大人の男性を極度に怖がっているんだ。それで、診察の度に過呼吸を起こしちゃって。」






「え!?発作は?」





「結構、ひどかった。発作が収まるにしても時間が掛かりすぎている。」





「そうか…。」





「でも、俺はあの子を初めて見た時から思ったんだ。」




「ん?」




「俺、あの子を支えたい。守りたいって思ったんだ。あの子のいる施設は、16になる歳に施設を出なきゃいけないらしいんだ。それで、今あの子と同い年の5人で暮らそうってなってるらしくて。正直、不安なんだ。美空ちゃんが発作を起こした時、みんながパニックになって、対応が遅れると思う。それなら、俺が診たい。あの子が辛い時を含めて、嬉しい時や楽しい時に傍にいたいんだ。こんな感情、初めてでさ。自分でも、どうしてこんなに1人の患者に感情移入してるのか分からない。けど、俺はあの子を一生かけて守っていきたいし、一緒に生きていきたいって思ったんだ。」
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