メガネの王子様
*****


ワイワイと賑わっている廊下を走り抜け、私達は使われていない空き教室へ飛び込んだ。

「はぁはぁはぁ…、桐生、大丈夫?」

眼鏡が飛んでイケメンがバレるといけないから、慌てて「鼻血」とか叫んでカーディガンを無理やり被せたけど…

あのチャラパーマに殴られたよね?

だって、変な鈍い音がしたもん…

私のせいで、あの綺麗な顔に痣なんてできてたらどうしよう。

私は桐生の頭に被さっているカーディガンを恐る恐る背伸びをして取ると、いつも通りの綺麗な顔がこっちを見ていてドキッとなる。

「俺、あんなへなちょこパンチで鼻血なんて出ねぇし、そもそも腕で防いだから顔になんて一発も入ってねぇから。」

えっ?

腕で防いだってことはっ⁉︎

「ちょっと、腕見せてっ!」

私が桐生の腕を掴み袖を捲し上げると、赤く腫れあがっていた。

「何これっ、腫れてるじゃんっ!」

「ああ…、アイツ、へなちょこパンチだけど指輪してたからな。まぁ、全然平気。」

桐生はサッと袖を下ろして痣を隠し、私の手にある眼鏡を「さんきゅ」と言って胸のポケットにしまった。

そんなに腫れあがってて平気なわけないじゃん…絶対、痛いに決まってるのに。

「なんで避けなかったのよ…。」

へなちょこパンチだったんなら避けれたでしょ。

なのに腕で止めるなんて…どうしてそんなことしたの?

「…お前が居たからだろ、ばーか。」

「え?」

それってどういう意味?

ーーーあ…そうか、あのとき桐生が、もし、避けていたら私に当たっていたのかも。

だから…桐生は避けずに腕で防いだ?

「ひょっとして…私を守ってくれたの?」

「ーーそんなんじゃねぇよ///」

そう言って背中を向けてしまった桐生。

うそ……。

いつも余裕があって意地悪で…私をからかってばかりの桐生が?

あの桐生が照れてる⁇

不謹慎なんだけど…なんだか嬉しいっ///

「ふふ…ありがとう、桐生。」

嬉しくて自然と笑みがこぼれてしまう。

コホンッと小さく咳払いをした桐生がゆっくりと振り返り

「なに笑っちゃってんの?」

と言っていつもの意地悪な視線を向け、包み込むように私の頭の後ろで両手を組んだ。

「俺、反抗的な態度とったらお仕置きって言ったよな?」

「わ、笑ってないしっ、反抗的な態度なんてとってないよっ///」

近いっ、近いよっ。

どんどん顔が近くなってるよっ、桐生っ///

みるみるうちに桐生との距離が縮まって、おでことおでこがコツン…と重なり合った。

視線が絡み合って…もう桐生から目を逸らすことができない。

初めて間近でみる桐生は、やっぱりとても綺麗で…睫毛なんて私なんかよりずっと長い。

あ……意外と瞳の色が薄いんだなぁ。

外見だけじゃなく、もっと桐生のことが知りたい。

何が好きで何が嫌いなのか。

小さいときは、どんな男の子だったの?

初恋はいつ?

どんな女の子が好き?

得意な科目は?苦手な科目は?

どんな小さなことでもいい。

あなたのことを…もっと知りたい。



「そんな目で見んなよ。煽ってるとしか思えねぇよ?」

桐生との距離がゼロに近づいて、私はそっと目を閉じる。

唇と唇が微かに触れたときーーー




「お前ら、何やってんの?」



教室のドアが静かに開けられ、そこには色んな感情が入り乱れた表情の清宮先輩の姿があったーーーーーーー


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