メガネの王子様
*****


健ちゃんと教室へ戻ると陽葵が駆け寄って来た。

「おはよ、陽葵。」

「おはよ、陽葵。じゃないっ、ちょっとこっちに来てっ。」

と言われて、今度は陽葵に手を引かれて教室を出て行く。

「桐生と抱き合ってたって噂が流れてるけどどういう事なの?」

周りに聞こえないように小さな声で聞いてきた陽葵。

私も周りに聞こえないように小さな声で、昨日の事と、健ちゃんが私の恋を応援してくれるって言ってくれた事を報告した。

「…そっか、健ちゃんがそう言ったんだ。」

陽葵は悲しそうな顔で返事をする。

どうしてこんな顔をするんだろう?

健ちゃんも陽葵も私が桐生への恋を頑張ること対して賛成ではないのかな?

「う…ん。ダメだったかな?」

「ううん。頑張れ萌香っ、私も応援するよ。」

ニコッと陽葵が笑ってくれて私は少しホッとした。

「ありがとう。私、頑張るね///」

陽葵の両手を掴んで意思表明をしていると、

「何を頑張るんですか?」

耳元から、あの甘くて魅惑的な低音ボイスが聞こえてきた。

一気に上がる私の体温。

「ち、近いよっ、桐生///」

私は後ろにいる桐生から少し離れて振り返り、胸を両手で押して距離をとる。

「おはようございます、神崎さん。
…あれ?顔が赤いですよ、熱でもあるんですか?」

桐生が私のおデコにスッと大きな手を当てた。

私の脈拍はさらに上がり、体温もさらに上昇していく。

「あれ?もっと赤くなりましたね?」とわざとらしく言って片方の口角を上げて笑っている。

く、悔しいっ///

私の顔が赤くなっていくことを絶対に楽しんでるっ!

私は桐生の手をドキドキしながら掴み、おデコから離した。

桐生は「クク…」とまだ意地悪そうに笑っている。

そんな私達のやりとりを見て

「はーい、はーい。そこ、イチャイチャしない。また噂になるよー。」

と言いながら陽葵が私と桐生の間に割って入って来てくれた。

「せっかく、昨日の噂を処理してやったのに、私の努力を無駄にする気なのー?」

え?

陽葵、私と健ちゃんが居ない間に、皆んなの誤解を解いてくれてたんだ。

「陽葵、いつの間に…。ありがとーっ。」

「どういたしまして、簡単だったよ。
今後一切、干渉しないで♡分かったよね?ってお願いしたら、皆んな素直に自分の席に戻って行ったからね。」

「そ、そうなんだ。あ、ありがとう。」

私は苦笑いで陽葵にお礼を言う。

………それって、お願いじゃなくて、、、皆んな脅されたと思ってるよ、陽葵さん。

だって、そういう時の陽葵の笑顔って凄く怖いんだもん…。

「噂って?」

今来たばかりで何も知らない桐生が質問する。

「昨日、あんたと萌香が抱き合ってたっていう噂。ちょっとは気を付けなさいよっ、桐生。」

少しムッとした顔で陽葵が答えた。

「何かされたのかっ⁉︎」

桐生は私の肩を両手でいきなり掴んで、真剣な顔で私を見てくる。

「だ、大丈夫っ。健ちゃんが助けてくれたからっ。」

「……町、田?」

そう言った桐生の眉間には皺が寄り、なんだか怒っているような表情に見える。

「桐生…どうしたの?」

「ちょっと来いよ」と一言だけ言って、桐生は私の手を引っ張り廊下を歩き出した。

「え?ちょ、ちょっと、どこ行くの?」

桐生は声を掛けても返事をしないし振り向きもしない。

どうして怒ってるの?

ひょっとして、私と噂になってたのがそんなに嫌だったの?

空き教室のドアをガラッと乱暴に開け、私を力強く引っ張り壁際に追いやった桐生は、両手で私を囲うように閉じ込めた。

「なんで町田?アイツと何してた?」

もう完全にモサ眼鏡とイケメンの区別が無くなっている。

「なに怒ってるの?健ちゃんが助けてくれたあと、少し裏庭で話してただけじゃん。」

「話って?」

私の目を真っ直ぐに捕らえて離さない桐生。

本当にどうしちゃったの?

ーーーってか、健ちゃんが桐生のこと応援してくれるって話をあんたに言えるわけないじゃんっ///

私が黙っていると、桐生がぐっと近づいて来て、息が触れてしまいそうなほどの距離になった。

眼鏡の奥から見える桐生の色素の薄い綺麗な瞳に見惚れそうになる。

「だからっ、近いって///」

バクバクと音を立てている私の心臓の音が聞こえそうで、桐生の胸を手で押し退けるけど、さっきと違って今度はビクともしない。

とりあえず俯いて桐生と視線を外し煩い心臓を静める努力をする。

「町田と何話したのか言うまで逃さないよ。」

あの魅惑的な低音ボイスで囁かれ、これ以上は心臓がもたないと判断した私は、仕方なくさっきの話を白状する。

「私の恋を健ちゃんが応援してくれるって話っ///」

「……………………。」

ーーーあれ?反応がない⁇

不思議に思って桐生を見上げると、バチッと目が合ってしまった。

慌てて目を逸らそうとすると、顎に手を当てられクイッと持ち上げられる。

「き、桐生///?」

「神崎の好きな奴って誰?」

「い、いや、あのっ///」

本人を目の前にして、そんなこと言えないよーっ‼︎

「…………なんか、ムカつく。」

そう言った桐生は、顎に当てた手で私の顔を横に向けーーー

私の首筋にキスをした。

チクッと鈍い痛みが走り、その後、舌で首筋をそっとなぞられ、私が足元から崩れ落ちそうになるのを桐生は腰に腕を回し支える。

再び視線が絡み合い、ゆっくりと距離を縮めてくる桐生。

…………キス…される。

そう思った私は目をそっと閉じた。

ーーーーあ、れ?まだ唇が触れない…?

「……悪い。」

そう言って桐生は私の身体を解放し、教室を出て行った。

力を失った私はズルズルと壁を伝い、ペタンと床に座り込んだ。

「なんなのよ…///」

こんなの…期待しちゃうじゃん。

桐生も私と同じ気持ちなのかもって…。

でも……

どうして?



ーーーーーキスは
してくれないの?ーーーーー


< 37 / 78 >

この作品をシェア

pagetop