メガネの王子様
*****



「気持ちよかったね〜。」

私達3人は大浴場からポカポカと良い気分で出て来た。

まさか、ホテルに大浴場があるなんて思ってなかった私達は大興奮で食事の後、お風呂へ入りに行った。

「あっつーい。」

私は半乾きの髪を巻き上げて、大きめのクリップで留める。

さっきまで髪で覆われていた首筋がスッと涼しくなった。

「神崎達も大浴場に来てたんだ。」

後ろから声を掛けられ振り返ると、そこにはタオルを肩に掛けた健ちゃんとスポーツ飲料を飲んでいる斎藤くんがいた。

どうやら2人も大浴場に入ってきたらしい。

あれ?

「…桐生は?」

桐生がいない事に気付き、健ちゃんに聞いてみる。

「あぁ…、なんかアイツ部屋の風呂に入るって言って来なかったんだよ。」

「そうなんだ…。」

そっか…お風呂に入るってことは眼鏡を外さないといけないもんね?

だから、皆んなと大浴場じゃなくて部屋のお風呂なんだ。

「それにしても…コホンッ…、なんか目のやり場に困るな///」

健ちゃんが口に手を当て目を逸らしながら言った。

「え?なんで?」

「なんで?って…、そりゃ、うなじが…///」

「うなじ?」

「なっ、なんでもないよっ///それより、あっちに土産物屋があったから、行ってみようぜっ。」

健ちゃんは赤い顔をして、陽葵や斎藤くんの肩をガツッと組んでお土産物屋さんに行ってしまった。

優花ちゃんは、斎藤くんに手を引かれピョコピョコと一生懸命について行っている。

健ちゃん…なんか変?

私も後から追うようにお土産物屋さんに向かおうとしたら、、、

横から伸びてきた手にガシッと腕を掴まれ、個室の様なところに引きずり込まれた。

な、なにっ⁉︎

ビックリしすぎて声も出ない私は、目の前にいる人物を見て、更にビックリする。

だって…ここに居ないはずの人が目の前に居るんだもん。

「…桐、生?」

私の目の前には、髪がまだ少し濡れたままの桐生がいた。

眼鏡をかけているが濡れた髪のせいか、いつもより艶っぽく見える。

落ち着いてきた私は辺りを見渡し、ここが自動販売機や氷が売っている部屋だと認識した。

「なんで、桐生がこんな所に居るの?部屋のお風呂に入ってるって聞いたけど。」

私が桐生を見上げると、桐生は少し頬を染めていて、火照っているのか怒っているのか、よく分からない表情で私を見ていた。

そして、少しずつ私を壁際に追いやり自動販売機の影に隠れ、逃がさないとでも言うように両手を壁につき私を覆う。

完全に2人っきりの狭い空間に、私の心臓はドクンッと波打ち、そして加速していく。

「心配で来てみたら、やっぱりだな。」

「…え?」

「男は皆んなオオカミだって分かってんの?」

「へ?オオカミ⁇」

全くもって桐生の言っている意味が分からない。

「無防備だって言ってんだよ。」

「私?え?どこが?」

訳のわからない事ばかり言わないで欲しい。

だって、私はこの状況に心臓がドキドキしすぎて何も考えられない状態なんだからっ///

「…バカなの?」

「は?」

さっきまで怒っているのかよく分からない表情だった桐生が、今度は妖艶な雰囲気をまといだした。

私の肩を両手で優しく引き寄せる。

そして…

顔をゆっくりと近づけてきてーーー



チュッ…



私のうなじに桐生の柔らかい唇が触れたと思ったら、今度は耳元であの甘くて魅惑的な低音ボイスでーーー



「こんな美味そうな…うなじ、他の男に見せんな。」




そう囁いた後、クリップをとり私の髪をほどいてしまった。

な、なに??

今…うなじにキスされた///?

「他の男に見せんなよ」だなんて…

それって、独占欲なの?

ど、ど、どうしようっ///

今って、ひょっとして告白のチャンス?

そう、そうだよっ。

勢いが大切だんだよっ。

私っ、今から桐生に告白しますっ‼︎

「き、桐生。」

と私が勇気を振り絞って名前を呼んだ時、タイミング悪く人が入ってきて、桐生は私と一瞬にして距離を取り「わかりましたね」と行って自分の部屋へ戻って行ってしまった。

えーーーーーっ!

せっかく勇気を振り絞ったのにっ。

嘘でしょぉぉーーっ!

タイミングが悪すぎるーーーっ‼︎

この後、私はひとりでトボトボと部屋へ戻って行った。



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