メガネの王子様
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最終日の小樽。



お昼に雲丹やイクラがのった海鮮丼を皆んなで食べた。

凄く楽しみにしていたはずなのに、食欲もなく味もよく分からない。

朝から気分が悪くて寝不足のせいか頭もクラクラとしているけど、折角の修学旅行だから、皆んなに気を遣わせたくない一心で、私はずっと無理に明るくしていた。

桐生は一緒に行動はしているけど、朝から誰とも話さないし一切笑わない。

ーーー私とは一度も目を合わせてくれない。

目を逸らされる度にズキンッと胸が痛む。

こんな状態が続くのは耐えられないっ。

そう思った私はお昼ご飯を食べ終わり、お店を出たタイミングで勇気を出して桐生に声を掛けた。

「き、桐生っ。ちょっといい?」

緊張して少し声が吃ってしまった。

桐生は一瞬立ち止まったけど、振り向きもせず先に歩いて行ってしまう。

声が小さくて聞こえなかったのかと思い、今度は大きめな声で名前を呼ぶ。

「桐生っ。」

でも…桐生は歩くペースを緩めることなく行ってしまった。

「はは…」と乾いた笑い声が漏れる。

私…無視されちゃったよ。

完全に嫌われちゃった。

話くらい聞いてくれてもいいじゃん。

桐生のバカ………。

目頭が熱くなってきて涙が零れそうになったが、空を見上げてぐっと我慢する。

私が桐生を傷付けちゃったんだから仕方ない。

桐生が1番聞きたくない言葉を私は言ってしまったんだから。

でも、ちゃんと説明したら分かってくれるはず。

私は両頬をパシッと叩いて気合いを入れてから、また笑顔を作り元気に皆んなの輪の中へ戻った。




それから私は何度も勇気を出して「桐生」と声を掛ける。

その度、無視された。

こう何度も何度も無視されると、さすがに心が折れそうになる。

もう、無理矢理にでも引き止めて話を聞かせてやるっ。

私は意を決して桐生に声を掛けた。

「桐生っ。」

「………。」

無言のまま桐生は立ち去ろうとしたので、私は桐生の腕をガシッと掴み引き止めた。

すごく怖くて、心臓がドクンッドクンッと強く波打ち痛いくらいだ。

「あのっ、桐生。私の話しを聞いて欲しいの。」

目をぎゅっと瞑り、私はなんとか声を絞り出した。

「………………。」

何も言葉が返ってこないので、そっと目を開けて桐生を見上げる。

前髪と眼鏡に隠され、桐生が今、どんな表情をしているのかよく分からない。

桐生がグッと唇を噛んだのが見えた瞬間ーー

腕を掴んでいる私の手をバッと凄い勢いで振り払い




「話し掛けないで貰えますか。」





と感情のない声で言ってから早足で遠くへ行ってしまう。





あ………………ダメだ。





ひび割れていた私の心が、今、ポキッと音を立てて割れた。



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