メガネの王子様
*****


「おはよ、神崎さん。」

今朝は罪悪感から学校へと向かう私の足は重たかった。

その原因が、今、私の前に立っている。

「…おはようございます、清宮先輩。」

女子の視線を集めつつ校門にもたれながら私を待っていたのは、昨日、私がカフェに置き去りにしてきた清宮先輩。

あの後、あの女の人達がいるカフェに戻る気にもなれず家に帰ったけど、清宮先輩に何も言わないで帰ったことを後悔してたんだ。

連絡を取りたかったけど、番号がわからなかったんだよね…。

「あの、昨日はすみませんでした。」

私は清宮先輩に向かって深々と頭を下げる。

「ここじゃ目立つから、場所を変えようか。」

そう言った清宮先輩が連れて来たのは、昨日のお昼休みと同じで人気もなくとても静かな校舎裏だった。

「どうして、昨日は急にいなくなっちゃったのかな?」

「…すみません。」

さすがに清宮先輩のファンに絡まれたなんて言えないよね?

まぁ、言ったところでって感じだし。

私は昨日のことを黙っておくことにした。

「オレが戻ったらリカ達が居たんだけど、彼女達と何かあった?」

リカってあのボスキャラのことだよね?

「別に何もありませんよ。」

「……そう?」

「はい。」

「じゃ、オレはなぜ置き去りにされたんだろうね?人生で初めての経験で、かなり傷ついちゃったよ。」

「ゴメンなさい…。」

「謝られてもね。」

清宮先輩はズボンのポケットからスマホを取り出し「とりあえず、今後のためにも連絡先を交換しておこう」と言って私の番号を聞いた。

昨日のこともあったし、断る理由もないので私は素直に番号を教える。

番号を教えたら少しは機嫌を直してくれるかと思ったけど、まだ少し不機嫌なようだ。

置き去りにしちゃったんだから怒って当たり前だよね…。

「どうしたら清宮先輩は許してくれますか?」

清宮先輩は「そうだね」と言って少し考えた後、少しずつ私に近いてきた。

そしてーーーーー

チュッ…

私の頬に小さなリップ音を鳴らした。

「な、な、き、清宮先輩///⁇」

私は、まだ清宮先輩の感覚が残る頬に手を当て、ドキドキと早くなっている鼓動を落ち着かせようとするけど、なかなか静まってくれない。

「これで、許すよ。ーーてかオレが得してるけどね。」

違和感なく自然に放たれたウィンクに、やっと静まりかけた鼓動がまた早くなりそうになった。

「もぅ、そういうこと言うのやめて下さい///」

「無理だよ。だってオレ、萌香ちゃんを落とすのに必死だもん。」

この人、萌香ちゃんって…サラッとよんだ///

「オレ、グイグイ攻めるから覚悟しといてって言ったよね?」

ニッコリと笑顔で言ってから「遅れちゃうとマズイからそろそろ行こっか」とご機嫌で校舎に向かって歩き出した。

完全に怒ってると思ってたけど、ひょっとして怒って無かった?

もしかして、連絡先とキスをするための演技
だったのーーー⁇

なんだか、私、清宮先輩に振りまわされてませんか…?




「…バカか。」



えっ⁈

私は声がした方に慌てて振り返った。

ーーー誰も居ない?

声が聞こえたと思ったけど気のせいだったのかな?

「早くおいでよ」と清宮先輩が呼んだので、私は走ってその場を去った。

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