甘い媚薬はPoison
いつも綺麗に整えられてる前髪は乱れてるし、走ってきたのか彼は肩で息をしていた。
「……蓮くん」
ぼんやりした目で私は蓮くんの名前を呟くと、無意識に手が伸びて彼の頬に手をやった。
他の誰でもない、彼が来てくれて嬉しかった。
「……無事で良かった」
蓮くんはホッとした表情で肩を撫で下ろし、私の身体に腕を回して強く抱き締める。
「……お前……身体が凄く冷たい。どうして倉庫になんか来たんだ?」
蓮くんは着ていたジャケットを脱ぐと私の肩にかけ、倉庫に来た理由を聞く。
「コピー機のトナーを探しに来たんだけど、突然電気が消えたと思ったら鍵が締まってここに閉じ込められて……。蓮くんが来てくれて良かったあ」
蓮くんを見上げてそう言うと、私は彼に抱きついた。
「もう大丈夫だ。おばさんもお前の帰りが遅くて心配してる」
蓮くんは身を屈めると、私をギュッと抱き締める。
「……暗くて……怖かった。……早く温かいお布団に入りたい」
外に出られて安堵した私は、泣き言を言って蓮くんに甘えた。
病気になるとわがままになって甘えたくなるけど、恐怖体験をした場合も同じらしい。
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