エリート上司の甘い誘惑
消えないキスをもう一度

お前は、酷い



会計は俺がやっとくから。
さよさんは、化粧直しでもしておいでよ。


解散の時間が近づき、東屋くんが会計を引き受けてくれたおかげで今少し、自分を取り繕う時間を得ている。


酔ってはいけないと、結局最初のビールしか飲んでない。
けど、ちょっとくらいお酒の力を借りた方が良かっただろうか。


居酒屋の洗面所で、軽くメイク直しをして鞄の中からあの腕時計を手に取った。


……もし。
これを見せても部長に何の反応もなかったら。


もう、この腕時計のことは忘れてしまおうと思った。
あのキスのことも。
大事なのは、今の自分の気持ちだ。


でもそれでいいのかな。
忘れられる?


何もなかったように出来るだろうか。
もしも後から、持ち主がわかったら。


自分の気持ちが定まらないまま、それでも落ち着こうと深呼吸をして、腕時計を左の手首に巻き付ける。


一番小さなところで留めても、まだ余るほどで。
気を付けていなければ、うっかり手首から抜け落ちてしまいそうだ。

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