エリート上司の甘い誘惑
「望美ぃ……酔って記憶飛んだことってある?」

「あー、あるある。どうやって帰ってきたのか全く覚えてなかったりねー」

「あ、よかった。あるよねあるよね」

「何やらかしたの」


少し声を潜め、上半身を乗り出して望美に聞こえるように、言った。


「やってないと思うけど起きたら見知らぬ腕時計があった」


え、と望美が笑ったまま固まった。


「男物の。洗面所に」

「まじで」


そして、うきうきと身体を乗り出して話に食いついて来た。
実に楽しそうだ、他人事だと思って。


「へえぇ、意外。さよってもうちょい身持ちが固いと思ってた」

「だからしてないって」

「覚えてないんだったらわからんじゃん」

「さすがにそれくらいわかるよ!」


……多分!


記憶がないから感覚でしかないのが悔しいが。


「えー、でもさ。置いてあった場所が洗面所って意味深じゃない?」

「意味深って?」

「まあ、あんたの言う通りヤってないとしたらよ。何のために腕時計を外したの?」

「何のため……」

「シャワー浴びる必要もないよね。じゃあなんで?」


なんで?
とニヤニヤと嬉しそうな顔で問いかける。


確かにその通りだ、外す必要なんてないのになんでだろう。


「……手を洗った?」

「洗う必要もないし、手を洗うくらいで外さないし」

「だよね」

「だからさ、私はそれ、わざと置いてったんじゃないかと思うのよ」


確かに、故意かなとか私も少し思ったけども。
だとしたらなんで、しかもあんな高級なのを。


余程力が入って皺でも寄っていたのか、望美が箸で私の眉間を指示した。



「なんか、身に覚えないの?」

「だから、何も」

「ほんとに? 酔ってたとはいえなんかちょっとは記憶あるんじゃないの?」



望美の言葉に、ぼんっと浮かんだのは当然あのキスの記憶で、同時にかあっと顔が熱くなる。
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