MAS-S~四角いソシオパス~
第五話

「それではこれから時空操作にあたっての書類申請が必要となりますので、こちらの書類に記入をお願いします。質問があればお気軽に聞いて下さい」
 黒いアタッシェケースから一枚の書類とペンを差し出す。そこには大きめの文字で『時空操作契約書』と表記されており、以下に申し込み事項が羅列されていた。


『時空操作契約書』


・操作申込書者の氏名、生年月日、住所を記入して下さい。

 氏名:
 生年月日:
 住所:


・操作対象者の氏名、生年月日を記入して下さい。

 氏名:
 生年月日:


・操作対象となる年月日を記入して下さい。

 西暦    年  月  日


・操作対象となる時刻を記入して下さい。

 午前・午後    時  分


・操作対象となる住所を記入して下さい。

     都道府県    市町村郡    丁目


・操作内容をできるだけ詳しく記入して下さい。

(                      )


※時空操作に掛かる費用は五千万円とする。振込用紙は記入先のご住所にお届けします。

※以上の時空操作内容は申請した日付より一カ月後に効果が表れます。効果が表れた後のクレームは一切受け付けません。

※記入内容を再度ご確認の上、注意事項をご了承されましたら下記に署名して下さい。

 氏名         
 


 氏名や住所を記入し進てめいると、操作対象の日付で止まる。
「これは事故の日を書けばいいんですか?」
「そうですね、事故の当日より、そもそものハイキング計画自体を中止する操作をした方が無難だと思いますよ」
「確かに」
 言われるように十二月十七日を記入する。時刻と住所に続き操作内容に入る。ハイキングに行くという選択を絶対行かないに変更とする。注意事項を確認していると疑問が生まれる。
「一カ月後ということは、四月一日に効果が表れるんですか?」
「今日の日付でしたらそうなります。厳密に言うと、四月一日の午前零時から午後十一時五十九分五十九秒の間に奥さんが返ってくることになります」
「なるほど……」
 記入内容を確認すると署名して新平に差し出す。
「こんな感じでいいですか?」
「……ふむ。これでかまいませんよ。記入漏れもありませんし。念のため、もう一度確認しますか?」
「いえ、大丈夫です。しっかりと確認しましたし」
「分かりました。それでは本日三月一日午後十一時五十五分を以て受付ました。責任をもって操作させて頂きます。先程も言いましたが、お支払いの方は効果が表れてからで構いません。振込み用紙は同時期に送らせて頂きますので宜しくお願いします。それと一つ言い忘れていましたが、効果が表れたのにも関わらず料金が一か月以内に支払われなかった場合、元の時間軸に強制変更されますのでご注意を」
 新平はそういうとカウンターにウイスキーの代金を置き契約書をアタッシェケースにしまう。ベレー帽を被ると新平は健介に一礼して店を後にする。残された明と健介は神妙な顔で見合わせる。
「何やら、奇妙な事になりましたな」
「ええ、僕も何て言ったらいいか、言葉が見つかりません」
「過去を変える男、ですか」
「彼が言っていたように、ダメで元々ですよ」
「効果、出ると宜しいですな」
「そうですね」
 完全に頭が冴えた明は、水の味しかしないグラスの中身を飲み干す。日付は周り、三月二日になっていた。



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