夢一夜
夫を訪ねて
不思議な夢だった。

好いた夫と2人で平穏な生活を送っていた。
彼が優しく、愛情のこもった眼差しを向ける度、私は温もった熱が胸いっぱいに広がる。平凡の極致のような幸福に包まれた毎日だった。

ある冬の柔らかな日差しが部屋を満たしていた正午前のこと。今日はずっと夫の姿が見えな
い。
日課である散歩からまだ帰っていないようだ。いつもは20分ほど歩いて、家に帰ってくるのが夫の習慣としている。今日は定刻を大幅に過ぎていた。
何かがあったのかもしれない。耳元まで不快に高鳴る心臓に駆り立てられ、下駄箱へ走っ
た。

玄関を出て山茶花公園へ、次に東へ梅寺に向かう。帰りに柊商店の店員に夫を見かけたかどうかと尋ねた。

「いいえ、今日は見ませんでした。今まで1日も欠かさずここを通っていたのに、珍しいこともあるものですね」

もしかしたら、すれ違いで帰ったのかもしれない。

居ても立っても居られず、その場から家まで駆け出した。
走りながら、ゼエゼエと息を漏らし、途中にある店屋の奥に目を凝らす。そこに夫はいない。
寒さで耳がジンジンと痛む。滲む視界を両手で拭い、左右にある道の分かれ目を見渡した。いない。
探しているうちに、家の前に着いた。
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