クールな次期社長の甘い密約

天涯孤独……って事は、親兄弟も誰も居ないって事じゃない。だとすると、本当に……


『それでね、倉田課長のお父さんの職業を聞いてみたのよ。何をしていた人だったんですかって……』

「麗美さん、よくそんな突っ込んだ話し出来たね」


さすが麗美さんだ。私だったら天涯孤独って聞いた段階で何も言えなくなっていたと思う。


『だって、中途半端のままじゃ気になって悶々としちゃうじゃない』


麗美さんの質問に倉田さんは少し怪訝な顔をしたが、ちゃんと答えてくれたそうだ。


『経営者だって……』

「経営者って事は、社長?」

『……だね』


麗美さんの力無い声が耳に響き、私は大きなため息を付いて天井を仰ぎ見る。


ここまで合致してたら間違いないのかもしれない。そもそも、そんな噂が流れたって事は噂になるだけのの理由があったから。やっぱり、火のない所に煙は立たないんだ。


あの倉田さんが本当に会社に仕返ししようとしていたなんて……


「麗美さん、大丈夫ですか?」

『うん、今は何も考えられないから……もう寝るよ』


麗美さんはそう言って電話を切ったけど、恐らく眠れぬ夜を過ごすのだろう。彼女の気持ちを考えると胸が痛む。


けれど、家族を亡くした彼も辛く苦しい人生を送ってきたはず。そのきっかけを作った津島物産を恨む気持ちは分からないでもない。


でも、彼の事を信頼し切っている専務の事を思うと……


この時から私は、倉田さんを警戒する様になった。

< 149 / 366 >

この作品をシェア

pagetop