クールな次期社長の甘い密約

軽トラが視界から消えると急いで倉田さんの元に戻り、グッタリしている彼の体を抱き起こす。そこへ、呑気に大あくびをしながら母親が現れた。が、倉田さんの異変に気付くと慌てて駆け寄ってくる。


「ちょっと、秘書さんどうしたの?」


母親に事情を説明し、取りあえず倉田さんを彼が寝ていた二階の部屋に連れて行く。


「昨夜、おばあちゃんと長い間、一緒に居たから風邪がうつったのかもしれない。倉田さん、ごめんなさいね」


熱く火照った頬に手を当て謝ると倉田さんがその手を握り微かに笑う。


「おばあ様のせいではありませんよ。大丈夫ですからご心配なく……」


全然大丈夫じゃないのに……こんな弱々しい倉田さんを見るのは初めてだ。


すぐにでも病院に連れて行きたかった。けれど、今日はお盆で病院は休み。それに、この雨と風だ。傘を差していても外に出ればズブ濡れ必至。そんな事になったら益々、風邪が悪化してしまう。


「市販の風邪薬を飲んでもらうしかないか……」


ため息混じりに呟くとお母さんが近くの診療所の先生に往診を頼んでみると言ってくれた。


「診療所? そんなのあったっけ?」

「二ヶ月前だったかしら、近所に診療所ができたのよ」


おばあちゃんも昨日は凄い熱で意識が朦朧としてたけど、診療所の先生に注射を打ってもらったらすぐに熱が下がったそうだ。


「休みだし、この雨……来てくれるかな?」

「あの先生なら、絶対来てくれるわ」


お母さんの言葉通り、ものの数分で診療所の先生が来てくれた。

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