クールな次期社長の甘い密約


――次の日……


目が覚めると昨夜の嵐が噓のように、雲一つない真っ青な空が広がっていた。


私と倉田さんは梅さんにお礼を言ってラブホを後にし、水位が下がって通行可能になった橋を渡って実家に戻った。しかし、実家には誰も居ない。


畑に行ったのだと思い覗いてみたら、ウチの畑とハウスが大変な事になっていた。背の高い野菜は倒れ、地生えの野菜は水に流され全滅。ハウスも支柱が倒れて無残な状態だ。


それを呆然と見つめている両親とおばちゃんの姿を見付け駆け寄るが、三人の落胆した様子に掛ける言葉が見当たらない。


「昨夜、何度も見に来たんだよ。その時は、なんともなかったから安心していたのに……」


父親が頭を抱えて座り込むとおばあちゃんが畑に転がった萎れた野菜をコンテナに放り込み、明るい声で言う。


「自然が相手じゃ仕方ない。ほら、後片付け始めるよ」


でも、ショックを受けた父親はなかなか立ち上がれず、母親も生気を失い突っ立ったままだ。見かねて私がおばあちゃんの手伝いを始めると倉田さんがスラックスの裾を捲りあげ、革靴のままぬかるんだ畑の中に入ってくる。


「あ、倉田さん、そんな格好でダメです! 汚れますよ」

「靴の一足くらいどうって事ないですよ。私にもコンテナを貸して下さい」


倉田さんが泥まみれになって手伝ってくれている姿を見て、ようやく両親も動き出し、私達は日が暮れるまで後片付けに追われた。


その後、遅い夕食を済ませ、倉田さんと縁側で涼んでいたら母親がよく熟れたスイカを持ってきてくれて、私の隣りに置く。

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