ドストライクの男

「小鳥ちゃ~ん」

仕事を終えた小鳥が、10Fの社長室に到着したのは午後六時を過ぎていた。
スリスリと彼女の頬に頬擦りする三日月の目尻は、ズット下がりっぱなしだ。

「もう、凄く待っていたんだから」

プンと頬を膨らませる四十三歳……に見えない美形紳士を冷静に受け止める小鳥。

「パパ、出張お疲れ様でした」

娘の労いに目をウルウルさせ、「本当にいい子に育ったわ」とまた強く抱き締める。

「そうそう、お土産があるのよ」

毎度恒例となった再会の挨拶を終えると、三日月はクイッと社長室の片隅を顎で指す。そこに山のように積まれた箱やら紙袋やら。

「パパ、幾度も繰り返し言っておりますが、無駄遣いは止めて下さい。毎度毎度頂いても、この身は一つしかございません」

洋服、バッグ、靴、アクセサリー……もう一生分……イヤ、二生分以上貰っている。

またネットオークションにかけなきゃ、と小鳥はこっそり溜息を付く。

毎回彼女はその売上金全てを、梨梨子という児童文学作家が立ち上げたメープル慈愛財団に寄付している。

そして、三日月はその事実を知っている。だから以前、小鳥は三日月に言ったことがある。

「購入代金をそのまま寄付した方がより多く寄付できるのでは?」と。
で、三日月から返ってきた答えは……。

「それでは世の中が回らないのよ。お金は『お足』と例えられ、人々の間で行ったり来たりして価値あるものになるの。価値あるもので、より多くの人が笑顔になる方がいいでしょう」

なるほど、と父の言葉に一理あると一応納得しているが……本当は、オークションにかける時間が勿体ない、と思っていた。

しかし、瞳を輝かせ嬉しそうに小鳥を見つめる三日月を見ると、結局、ヤレヤレ、と溜息を付きながらも「ありがとうございます」と礼を述べるのだった。

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