ドストライクの男

「見ていたわよ。華麗なる四角関係」

ベリ子がニシャリと相好を崩す。

「周りの女たちが羨まし気に、忌々し気に、貴女を見ていたわ」

何がそんなに嬉しいのだろう、と小鳥が思っていると、今度はギリギリ歯ぎしりする音が聞こえ始める。

「あの女! マーサ・ブラウンめ! フン、ざまあみろだ!」

拳を握り締め、憎々し気に口をへの字にするベリ子に、ハテナマークを浮かべる小鳥。

「ブラウン……親戚か何かですか?」
「ええ、そうよ! 何でも人のものを欲しがる嫌な女よ!」

ベリ子の説明によると、過去、マーサにボーイフレンドを取られたらしい。

「あの女、私より七歳上なのに年下好きで……光一郎さんと秋人さんに目を付けたみたい。全く、色魔ババアめ! この際、秋人さんを犠牲にしても光一郎さんを死守するのよ!」

「何を死守するの?」

突然聞こえた声にベリ子がギクリと身を震わせ、機械仕掛けの人形のようにカクカクと振り向く。それにつられ小鳥も視線を声の方に移す。

そしてそこに見たものは、ボンキュボンのエロティックな肢体。
その体に、ボディーコンシャスなロング丈の真っ赤ドレスを纏ったゴージャスな女性だった。

「マーサ」

美しい金髪に派手な顔。彼女がべリ子の従姉……似ていなくもない、とべリ子が聞いたらどつかれそうな感想を小鳥は持つ。

「ごきげんよう、ベリー」

ベリ子に挨拶しながらもマーサの視線の先は小鳥だ。

「で、こちらは?」

ほら、やっぱり、とベリ子は小鳥に目配せし、仕方なく小鳥を紹介する。

「彼女、同じ会社に勤めている桜木小鳥さん」
「桜木……ということは桜木三日月さんの……」
「遠縁です」

小鳥の言葉に、「フーン」とマーサーは品定めするように小鳥に視線を走らせ、結果、明らかに『格下』と見下す目で挨拶する。

「私はベリーの従姉でマーサ・ブラウン。フリーのインストラクターよ。来年からこちらのフィットネスジムにも週一で入る予定なの。よろしく」

べリ子はその威圧的な物言いにムッと唇を歪めたが、小鳥は、なるほど、と全く動じることなく、5Fにあるフィットネスジムのことを考える。

彼女、ジムのインストラクターとしては少々豊満過ぎる肉体だが、売り上げが落ちたジムに男性客を呼び込むには効果大かもしれない。

それが効を奏するかは分からないが……。
まぁ、経営の立て直しができなければ、三日月のこと、即、撤退を申し渡すだろう。

ここはひとまずお手並み拝見、と自信満々のマーサに「よろしくお願いします」と小鳥は頭を下げる。

< 29 / 61 >

この作品をシェア

pagetop