ドストライクの男

光一郎はそんな小鳥に近付くと彼女の腕をグッと引き、自分の腕に閉じ込める。そして、フッと笑みを浮かべると小鳥の唇にフワリとキスを一つ落とした。

「三回目となるキス。思い出しませんか?」

光一郎が意味有り気に妖しく瞳を光らせる。
何、この感覚……? 遥か遠い記憶の一部に光が当たる。
魔法にかかったように微動だにできない小鳥に光一郎の声が聞こえる。

「まだ、思い出しませんか?」

光一郎の瞳が小鳥の瞳を捉え、小鳥は我が身が映る瞳の奥の閑寂に気付く。
この瞳……覚えがある。

アッと僅かに開く小鳥の唇に光一郎の唇が再び落ち、その隙間から彼の舌が口内に飛び込む。

うぅん! とその口づけから抜け出そうと小鳥は身をよじるが、光一郎の左手が腰を、右手が後頭部をガッチリ押え、全く歯が立たない。

『媚薬』

その口づけは小鳥から現実を奪い、夢界への扉を開け、甘味で淫乱な世界へ誘う。

正常な意識が彼の唇に飲み込まれ、感覚が麻痺し、小鳥は光一郎の腕の中にグッタリと倒れ込む。

「思い出しましたか?」

光一郎の囁きが、彼の甘い息と共に小鳥の耳をくすぐる。

「小鳥ちゃん、好きだよ」

アッ! 小鳥は目を見開く。

「貴方!」
「ようやく思い出して頂けましたね、小鳥ちゃん」

艶やかな笑みを浮かべ光一郎はペロリと舌なめずりする。

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