secret justice
第27話

 午後一時。
「で、話ってなに? あたしを急に呼びつけたからにはパフェの一つや二つはおごってもらうからね」
 晶は待ち合わせのカフェの席に着くなり文句と変な誓約をつける。どうやら何かの用事で忙しかったらしい。現在カフェには真と晶しか客はいない。
「急かして悪い。でもちょっと気になることがあってな」
 晶はウェイターにチョコパフェを頼んでからちゃんと真に向き合う。
「気になることって?」
「鹿島先輩のことなんだけど。彼女、もしかしたら事件に絡んでるかもしれない」
 真は声のトーンを落として語る。
「ふむ、その理由は?」
「ちょっと前に、電気店で嘘の捜査行動を先輩に話したのは晶も知ってるだろ? あのとき、僕は資料を持っている人物の事務所に資料を取りに行くとは言ったが『探偵事務所』と言った覚えはない。しかし、今日先輩と偶然事件の話になったとき先輩は『探偵事務所』とはっきり言った。単なる偶然かもしれないけど、そんな気がしたんだ。晶はどう思う?」
「どうって言うか、うん。実はずっと黙ってたんだけど、鹿島が『sora』のメンバーだと聞かされたときからあたしは鹿島に目を付けてたよ」
「は? なんで?」
「真、気づいてなかったんだ。最初学校でメモを落として鹿島に見られたって言ったでしょ? そのメモには幽霊の特徴と犯人の特徴、そして更科さんという実名も書いてあった。それを見て鹿島が何を聞いてきたかというと『調査の内容』のみだった。これを聞いて不思議に思わない?」
「不思議にって、別に変じゃないだろ? 先輩は書いてあることに疑問を感じて質問したんだろうし。質問自体はおかしくない……、ん? あっ! そういうことか!」
「分かった?」
「質問したことは不自然ではない。しかし『sora』内のメンバーである勇気さんが亡くなったことを当然知っている先輩がそれについて一言も語らないのが不自然なんだ!」
「明察」
 晶は人差し指を立てる。そこへタイミング良く注文したチョコパフェがくる。
「あたしも最初その話を聞いたときは別に何とも思わなかった。けど、鹿島がメンバーだと分かったときに違和感を覚えたの。あたしがもし鹿島と同じ立場なら、更科事件を追っていると聞いたら仲間のために自分の知ってることを話したりして何かしらの協力をすると思う。しかも、昨日マックで会った木村・深山の両名から鹿島の特徴を聞いた感じ、事件とか問題があれば自ら率先して解決しようという正義の心を持った人物だということがよく分かった。これらのデータからして、鹿島があのメモを見た状況下で、何かしらの協力を申し出ないのは不自然と言わざるを得ない」
(だからか。昨日マックであんなに鹿島先輩のことを聞いてたのは)
「佐々木の線も疑ったけど、真から聞いた感じでは事件にも協力的だし白だと思う。反対に鹿島は限りなく黒に近い灰色ね。自身が主犯か主犯の何かに絡んでる可能性は高いと思う」
 晶は一息ついてパフェを頬ばり始める。
「確かに晶の言う通りだ。事件にちょっとでも関わりのあった場合、先輩なら十中八九何かしらの協力をするだろう。しかし、事件に関わったかもしれないという物証がないよな?」
「ないね」
 晶は長いスプーンでパフェをつつきながらあっさり答える。
「どうするんだ? 物証がないとどうにもできないだろ?」
「確かに現時点では物証はない。けど、ないのなら物証を挙げるまででしょ?」
「物証を挙げるって言っても、仮に先輩が犯人だとしても、凶器か何かを自室に隠し持っていないと挙げようがないだろ?」
「うん。無理。むしろ凶器は挙がらないと思う。犯人が鹿島なら凶器なんてとっくに始末してるだろうし」
「じゃあお手上げじゃないか」
「うん、こっちから挙げる分にはお手上げ。けど鹿島本人から挙げてもらえば問題ないでしょ?」
「自白か。状況証拠しかない状況で素直に自白してくれると思うか?」
「…………」
 真の質問に晶は途端に口を閉ざし少し考え込む。しばらくすると決心したのか、ポッケからメモ帳を取り出し真の前で開く。開いところを見ると次のようなタイトルが書かれてある。

『鹿島優についての調査報告書』

「これは……」
「昨日の晩からさっきまでで、分かった範囲内だけでおっちゃんと調べてみたの。真に言わなかったのは、真が鹿島と近しい間柄だったから」
 真は無言で調査書に目を通す。

・鹿島優/♀/16歳

・家族構成/両親のみ

・私立茶屋高校二年

・住所/八雲町730-5『マンション・ルーク102号室』

・生徒会副会長/NPO法人sora茶屋本部の一員


【土曜日の動き】


PM9:00・NPOのボランティア活動終了後、メンバーの女の子一人と一緒に事務所を出る

PM9:10・二人でカラオケボックスに入る。ドア越しから部屋を数回覗くが二人で手を握って仲良く歌っている

PM10:20・カラオケボックスを出る。女の子を八雲駅まで見送り。本人は自宅へと帰る。それ以降に動きは無し


【日曜日の動き】


AM9:30・私服姿にて自宅を出る

AM9:50・八雲駅にて誰かと待ち合わせのもよう。数分後、同じ生徒会の役員である草加真と落ち合う


 晶を見ると知らんぷりをして黙々とパフェを口にする。晶は真と鹿島の今日の行動をすべて見ていたのだろう。気を取り直して続きを読む。



AM11:00二人は買い物を済ませベンチにて会話をする


AM11:30屋上で二人は分かれて別行動を取る


PM12:10茶屋本部に入っていくのを確認


 行動の内容はここまで終わっており、真はため息吐いて話を切り出した。



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