ここからはじまる恋

「話がおかしくなっているから、種明かしをした方がよさそうね」

父と娘の噛み合わないやりとりを黙って聞いていたお母さんが、ぽつりとつぶやいた。

種明かしって、なに? マジックじゃあるまいし……。ぽかんと口を開けた。

「実は、ね。新庄先生のお父さんと、お友だちなの」

やっぱり。私の知らないところで、なにかが起きていたのか。

「……それで?」

「ハンサムだけれど、女っ気がないから、紗良とお見合いをさせたいと言われてね」

「お見合いなんて、ヤダ」

「そう言うと思ったから、スパイという形で、新庄先生の歯科に紗良を送りこんだの。もちろん、新庄先生は、紗良がお見合い相手だと知っていたはずなんだけれど、『別になにもなかった』なんて言うから、脈がなかったんだとがっかりしたのよ」

ちょ、ちょっと待って! スパイ大作戦かと思ったら、お見合い大作戦だったってこと? しかも、私だけがなにも知らないなんて……。

「それが昨日、連絡をいただいたから、後で紗良を誘ってくれたんだ! と、よろこんだってこと」

「ひどい!」

なにそれ? 私の気持ちも考えずに、勝手にお見合い話を進めて。それならまだ、普通にお見合いした方がよかったよ。

「たしかに。紗良を騙すようなことをして、すまなかったと思っているよ。でも、あんな素敵な男性とお付き合いできるのなら、結果オーライじゃないか」

お、お父さん!? 『結果オーライ』じゃないよ!

「お付き合いする気なんて、ないし!」

コーヒーを一気に飲み干すと、勢いよく席を立った。

「やっぱり、まずかったか」

そんなお父さんのつぶやきを背中に受けながら、リビングを後にした。

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