ここからはじまる恋
ここからはじまる

こんな惨めな姿を見られた恥ずかしさ、豹変した空への恐怖心、解放された安心感……。様々な感情が、涙になって溢れた。

「弟が手荒な真似をして、すまなかった」

しゃがみ込むと、私に謝る新庄先生。彼は、悪くない。私を助けてくれたのだから……。座り込んだまま、ぶんぶんと首を横に振った。

ふぅ、と、ため息をついたかと思うと立ち上がり、新庄先生が私から離れていった。

どこに行くのだろう? 遠ざかる背中を涙目でみつめる。新庄先生は、自分の部屋の中に消えていった。

……どうしよう? エレベーターを開ける鍵がないと、ここからひとりで帰ることができないのに。

新庄先生がいないすきに、また空が姿を現したら……!?

恐怖心がジワジワと沸いてくると、慌てて立ち上がり、新庄先生の部屋の前まで走った。部屋の扉を叩こうとした瞬間、勢いよく扉が開いた。

「……なにか?」

新庄先生の手には、ペットボトル。冷えた水の入ったそれを、私に手渡した。

「よかった」

受け取ると安心して、また涙が溢れた。

「困ったお嬢さんですね」

新庄先生が相変わらずの呆れ顔で、私を部屋に入るよう促した。緊張で、私の顔が強張った。

「ご心配なく。指一本、触れませんよ」


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