ここからはじまる恋

「もし、新庄先生が……私なんかでもいいと言ってくれるのなら、友だちから始めませんか?」

私を三度も助けてくれた新庄先生のこと、もっと知りたいと思った。

「無愛想で、人当たりが悪くて、無口でもよければ」

無表情でそんな返事をするから、思わず笑ってしまった。そんな私を見て、新庄先生が笑った。

「でも……あなたの前なら、自然に笑える気がします」

スッと、大きな手を差し出された。緊張で震えそうになりながら、その手を取る。

「よろしくお願いします」

意外にも温かい手に、胸の鼓動が加速した。第一印象も大事だけれど、向き合うことの方がもっと大事だと悟った。

「送ります」

手を離すと、いつもの新庄先生に戻った。なんだか不思議な気持ちで、その後ろに続いた。

「このフロアが新庄先生の家、なんですか?」

緊張しながら、気になることを口にした。

「家は、別の場所です。このビルは、親の所有物で。このフロアは、私たち兄弟のプライベートルームなんです」

プライベートルーム? 別荘みたいなものかな? どちらにしても、平凡な家庭で育った私には縁遠いものだと思った。

「そうですか。行き先階ボタンのないエレベーターなんて、異世界みたいですね」

思ったことを言っただけなのに。新庄先生は、声をあげて笑った。息苦しい空間が、初めて楽しいと思えた。

< 63 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop