ここからはじまる恋
「ありがとうございました」

また新庄先生に助けてもらった。お礼を言うと、並んで歩き出す。

「大したことじゃない」

「でも……さっきのこと」

たしかに。助けてもらったこと自体は、大したことじゃないのかもしれない。

でも、さっき、新庄先生……自分のことを『彼氏』と口にしたよね? たったひと言が、私の胸の鼓動を早くした。

「ああ、『彼氏』ってヤツ?」

新庄先生がサラリと口にした。彼からすると、私を助けるための軽い嘘かもしれないけれど……。

「言ってはいけないこと、でしたか?」

「え?」

「紗良さんの彼氏だと、言ってはいけないことでしたか?」

「ええっ?」

私……いつの間にか、新庄先生の彼女になっていたの? いつ? なにがきっかけで? 頭の中が混乱して、まばたきを繰り返した。

「ああ、すみません。あなたを混乱させてしまいました」

私の癖も、新庄先生は覚えていた。そんな私の手を、そっと握る。

「結婚を前提に、お付き合いしてもらえませんか?」

突然の、プロポーズのような告白。まばたきが止まらない……。

「私で、よければ……」

「よかった。では、食事に行きましょう」

新庄先生が手を離し、何事もなかったかのように歩き出すと、‘‘B.C. square TOKYO’’に入っていった。

「あ、ちょ、ちょっと! 待ってください」

大きな背中を慌てて追いかける、私。なぞの多い新庄先生との恋が、動き出した瞬間だった。

(おしまい)

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