メジャースプーンをあげよう

「18時ですね。確かに承りました。ではいつきが伺います」
「ハアッ!?」

 ホールから戻ってきた私の耳に飛び込んできたセリフに、思わず変な声が出た。
 右肩と顎に子機を器用にはさんでいた上坂くんが「シー」という唇のかたちを作る。
 あわてて口を抑えたけど、でも私には反撃する権利があるはずだ。

「いえ、構いませんよ。お気遣いありがとうございます。……はい。では」

 通話を切り終えるのを待ってトレイを振り上げる真似事をすると、左手で子機を引き抜いた上坂くんが客受けのいい笑顔で渡してきた。
 ぐっとなって思わず受け取ると、上坂くんは笑顔を崩さないまま首を傾げてみせる。
 ホールが足りない時稀にキッチンから出てきてお客様にお届けするときとまったく同じ笑顔、首の傾げ方だ。
 女性のお客様にはカワイイだなんて言われてるけど―――

(ぜんっぜんかわいくない!)

 私たち従業員には効くわけがない。


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