メジャースプーンをあげよう

(……って思ったのに)

「なんでこんなことに」

 肩から提げたバッグの紐を握りしめながら、ため息が出た。
 事務所で手早く身支度を整え、エントランスへおりるために専用エレベーターに乗りこんだところで―――

「なんでって。降りるんでしょ?俺もだしー」

 ―――上坂くんが走ってきたのだった。
 結衣子さんはレジ閉め担当だったから、売上を金庫へ預けに行かなければいけない。だから少し時間がかかるのは分かっていた。
 でも、上坂くんがこんなに早く追いついてくるのは完全に想定外。

「……早くないですか?」
「俺もともととっくにあがりだったよ?」
「じゃあなんで戻ってきたんですか」
「んーなんでだろ? なーんとなく?」

 嗅覚がどうのって言っていた結衣子さんを思い出した。
 本当なら動物みたいだ。
 黒くてデッカイ犬。やたら懐っこくて、いつもわふわふ楽しそうな犬。


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