メジャースプーンをあげよう

「む、つきさん」
「えっ」

 バカみたいに目を丸くして名前を呟くと、隣に立つ上坂くんが驚いたように私を見る。
 上坂くんは息を吸ったまま吐けないみたいに口を開き、私と睦月さんとを交互に見遣った。

「何、どうしたの」

 あまりに不審な反応についタメ口になる。
 そっと寄ってきた上坂くんを避けなかったのは、耳打ちしてこようとしたのがわかったからだ。

「……あれがミスター結構?」
「そうですけど」

(まあ本人目の前にあだ名はねえ)

 そう思ったのも束の間、声を掛けておいてそのまま去るのは失礼だと思ったらしい睦月さんは、律儀に少しお辞儀をしながら近付いてくる。
 近付いてくるといっても、ビルの出入り口から最寄駅までほぼまっすぐの道なりだから、たぶんただ歩いてきているだけ。

 煌々としたビルのあかりを背にしている私と上坂くんは、影みたいになっているはずだ。


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