メジャースプーンをあげよう

 なんて言うんだっけ、こういうの。
 出待ち? 入り待ち? どっち?
 アイドルの追っかけやってる友達から聞く単語を思い出しながら、私はそこを見た。
 駅から出て大きな交差点を渡り、ビルまで道なりになった歩道。
 お昼には駅周辺やビルに勤める社員たちであふれているけど、もう14時を過ぎた今は通行人以外にほとんどいなくなっている脇のベンチ。

「いつきちゃーん。おーはよ。じゃないか、こんちは」

 そこに座って笑いながら手を振ってきたのは上坂くんだった。

(今日シフト入ってなかったはずじゃ)

 昨日の今日だし気まずくて、会わなくてすむと思っていたのに―――

(あれ?)

 ベンチから立ち上がって歩いてくる上坂くんの左手にあるもの。

「忘れものー。いつきちゃんのだよね」
「なんで」
「だって今日寒いじゃん。ハイ」

 言いながら私の首にショールを巻いてくる。
 あまりの早さにされるがままにされたけど、「行こ」と手を繋がれかけて我に返った。
 慌ててふりはらう。

「ちょ! 繋ぎませんよ」
「なーんだー。ケチ」
「ケチとかじゃなくて! っていうか上坂くんお休みだったはずですよね」
「敬語やめてってばー。圭吾だけに?」
「………」
「その冷たい視線。たまんないねー」

 無視して歩きはじめる。
 いつも時間に余裕をもってお店に入るようにしてるけど、だからってこのまま上坂くんの話し相手になっていたら遅刻しちゃうかもしれない。
 早足気味にしたのに簡単そうについてこられる事に微妙に腹が立ちつつ、足を止めずに向かった。


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