【超短編 17】黄金のデパート
黄金のデパート
 大きなお姉さんが僕の前に立ちはだかって、こう言った。
「ちょっと付き合ってくれない?」
 これが噂の逆ナンパというやつかと思ったが、どうやら違うみたいだ。
彼女に連れられて行った場所はデパートだった。意味もわからないまま女性ブランドのコーナーを上から下へ回りに回り、この服はどうだとかあれはなんだとか聞いてきた。僕はさほどファッションにこだわりもないし、まぁそれでも全く気にかけないわけでもないが、街中で男を捉まえて意見を聞くにしても僕以外の適任者はもっといそうなものなのにどうして僕に声をかけたのか疑問を持ちながらも、僕は僕で真剣に彼女の相談に乗って、時には意見したりもした。
僕は今だかつてこんなに女の子の服に対してとやかく言うことがなかったので、自分がこんな風に色々言うことに驚いた。現に数年前付き合っていた彼女の買い物に付き合ったときはとても退屈だったし売り場にいることが場違いに思い、気恥ずかしかったりした。そのときの彼女もそれを察して
「もう連れて行かないから安心して」
と言ってきたし、僕もそれから別の女の子と付き合っても、買い物を一緒に行くことはしないようにしてきた。大きなお姉さんは大きいといっても身長は180センチくらいで僕の身長が低いからそう思うだけで、別に目立つ存在というわけでもなく選ぶ服だって割と地味目のものが多かった。始めは多少強引ではあったが僕は彼女との買い物を楽しみ、いつもの僕と違う僕の違和感を面白がったりした。
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