癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
「あの、井口先生、お聞きしたいことがあるんですけど、
今、よろしいですか?」

「何?」

「管理室の田中さんなんですけど、
最近、お見掛けしなくって。
もしかしたら、お体の具合でも悪いのかな、なんて思って。
先生、何かご存じですか?」

「いや、何も聞いていないよ。
僕に聞くより、松浦社長に聞いてみたら?
まみちゃん、彼と接点あるんだろう?」

「あっ、はい。
接点というか、お目にかかる機会はあります。」

「彼なら何か知ってるかもよ。」

「そうですか。ありがとうございます。」

確かに、私が倒れた日は松浦社長は管理室に用があったはず。
もしかしたら、ビルの管理システムのコンピュータかなにかで、
松浦社長と管理室の人とはつながりがあるのかもしれない。
お食事でお会いするときにでも、聞けたら聞いてみようと思った。

時の経つのは早いもので、
あっという間に松浦社長とお約束した水曜日になった。
松浦社長からいただいた連絡では、
午後4時30分に井口内科クリニックのさやかさんを
訪ねるようにとのことだった。時間になって訪ねていくと、
クリニックの前でさやかさんが待ち構えていた。私服だった。

「さやかさん、今、仕事中ですよね。大丈夫ですか?」

「ええ、実は今週から新しい看護師さんに来てもらっているの。
だから、私の仕事はこれでおしまい。大丈夫よ。」

「どうしたんですか、急に新しい看護師さんなんて。」

「実はね、私、妊娠しているの。
この間、わかったばかりなんだけど、今、12週目。
私もいずれは職場に復帰したいけど、どうなるかわからないから、
新しい看護師さんに少しずつお仕事をお任せしようと思って…。」

「そうなんですか。おめでとうございます!」

「この件は、まだ内緒にしておいてね。
うちのスタッフにもまだ全員には話していないの。」
< 45 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop