癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
俺が女性不信で
管理スタッフに変装していたことを話してから、
彼女と打ち解けてきたように思う。

俺の留学時代の話にも熱心に耳を傾けてくれた。
ちょうど俺がいた街に
彼女がホームスティしたことがあるといい、
共通の話題も広がった。

俺のことも「悟さん」と呼んでくれることになり、
それなりに距離は縮まったと思う。

帰りに彼女を送っていった。
食事が終わったのがだいたいpm8:30ごろ。
このまま帰るのにはまだ早かった。
本音を言えば、54FのBarにでも行って、
カクテルくらい飲んで、もっといろいろな話をしたかった。

ただ、恋愛から長いこと遠のいていた俺は、
そんなことをしてまみちゃんにかえって、
不審がられるのではと心配した。
それで、紳士的に早めに彼女を送っていくことにしたのだった。

彼女の道案内で車を走らせる。

「あっ、ここです。この角のアパートです。」

B.C. square Tokyoから
南に10分くらい車を走らせたところに
彼女のアパートがあった。

共有エントランスがなく、
外付けの階段で2Fの部屋に行くようなタイプのアパート。

セキュリティのなっていないところで、愕然とした。
心配で、自分の家に連れていきたい気分になった。
ただ、焦りは禁物だ。
以前より彼女との距離が縮まったのに
余計なことをすればまた警戒されてしまう。

アパートの前で車を止め、俺は名刺を取り出し、
その裏にプライベートの電話番号とアドレスを書いて渡した。

何かあったらすぐに連絡が欲しい。
そういう思いを込めつつも、
下手に下心の行動だと思われないように振舞った。

「会社の番号だと小林がまた、
何か君に嫌な思いをさせるようなことを言うかもしれないから。」

「ありがとうございます。おやすみなさい。」

「おやすみ。」

さらりとスマートな別れを装いつつも、
仕事であれ、プライベートであれ、
彼女を守りたいという気持ちを強くした。
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