癒しの田中さんとカフェのまみちゃん
「まみちゃん、真面目だからさ、
まずは仕事って思っていて、
お前ンところの仕事が終わったら、
認めてもらおうと思っているんじゃないか?」

「まぁ、彼女と距離を縮める前は、
契約のために手厳しいことも言ったような気がする。」

「じゃあ、そうなんじゃないか。」

井口に言われて、自分が焦って、
へんな方向にしないようにしようと思った。

「井口にもさやかさんにも話を聞いてもらえてよかったよ。
さやかさん、体調が大変なときに申し訳ない。」

「いえ、気になさらないでください。」

「田中、そういえば、お前、
シアトルアップルに最近、行っているか?」

「いいや。彼女に管理スタッフの田中と
松浦である俺が同一人物だと知られてから
行っていないや。」

「なんだかシアトルアップルだけでなく、
管理スタッフとしてのお前は
『癒しの田中さん』として有名だから、
ビルのあちらこちらで、見かけなくなったって
重病説が流れているぞ。」

「彼女と知り合って、
偽りの姿をしている必要がなくなったからな。
誰かに聞かれたら、病気で退職したらしいとでも
言っておいて。
俺も管理室にいる他のスタッフにもそう説明しておくから。」

「それについては了解!
まみちゃんのことが気になるなら、
カフェにたまには行ってみろよ。」

「社長の俺が一人で立ち寄ると目立つからな。
井口が行くとき、呼んでくれよ。
お前といっしょならそう目立たないだろう。」

「わかった。さやかのつわりで、
クリニックでコーヒーはちょっと飲めそうにないしな。
お前が姿を見せれば、
また、まみちゃんとも進展があるんじゃないの。」

「そうだといいんだが…」

「あんまり、マイナスに考えるなよ。ヘタレ!」

全く井口の言う通りで、言葉の返しようもなかった。
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