秘密の告白~おにいちゃん、あのね~
「ごめんごめん、そんなに気に入ったならさ……」

 ガチャガチャと机の引き出しを動かし、目当てのいつ使ったのかわからない細めの紐を探しだすことに成功した。

ボールペンにひっかけるように結んで、遥姫の小さな手に乗せる。

「はい、ちょっと早いクリスマスプレゼント」

 本当はなにか可愛いお菓子の詰め合わせでも、と思っていたのだけれど、あんな顔を見せられたら今渡さずにはいられなかった。

まじまじと見つめたあと、ニッコリ微笑む遥姫。

「まだ数回しか使ってないからインクもまだあると思うから、お父さんや先生やお友達とかにお手紙書いてあげてみなよ」

 きっと喜ぶよ、と付け加えると同時に、リビングの方から「ココアいれたわよー」という母の呼ぶ声がした。

「じゃあ、僕たちもいこうか」

 椅子から立ち上がると遥姫の背中をポンとたたいて、部屋の出入り口の扉を開けようとしたときだった。

くいっと服の裾を引っ張られるので、後ろを振り返ると遥姫がなにか言いづらそうに見上げてくる。

「ん?どうした?」

 ひざを折って目線をそろえると、遥姫は僕の耳に手を当てる。

「おにいちゃん、あのね……」

 少し熱を帯びた吐息が耳をくすぐる。

「おにいちゃんに一番に書くね、おてがみ」

 扉の向こうで母と義之さんの笑う声がした。

今どういう状況なのかと理解しているはずなのに、僕はうまく体を操ることが出来なくて、気付いた時にはくせ毛が頰をくすぐる小さな頭を隠すように遥姫を抱きしめていた。

この胸の温度と痛みを、どうしたらいいのだろうか。
この気持ちを、どこにぶつけていいのだろうか。

 僕は――

「ありがとう、遥姫」

 小さくつぶやいて体を離すと、いつも通りに笑い、いつも通りに遥姫と手をつないで部屋を出た。



 僕は、幼い彼女に恋をしてしまっていたのだと思う。
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